nero

ストーカーのneroのレビュー・感想・評価

ストーカー(2002年製作の映画)
3.5
この映画に「ストーカー」ってタイトルを付けるのはあざとさしか感じない。製作者に失礼という域だ。
もっとも原題「One Hour Photo」も意味が通じなくなっていくのだろうなあ。かつてDPE屋を手伝っていたことがある身としては、その一挙一動に懐かしさを感じてしまう。冒頭、嬉しそうに『40分で仕上げます』(現像20分、36カットプリント2枚ずつプラス自分の分1枚だとほんとにギリギリ)って受けるサイ(ロビン・ウィリアムス)の姿は微笑ましかった。

制作は2002年、ちょうど銀塩からデジタルへと移行が始まった頃で、一般では35mmやレンズ付きフィルム(使い捨てカメラ)が主流だった。まだデジタルカメラは一部の好事家のもので、APS規格で巻き返しを図ったカメラ/フィルム業界だったが、時代の流れは変えられなかった。サイの勤めるホームセンターでもPC周りの商品が並び始めている。
そして、かつては収益貢献の優等生だったDPE業界に翳りが訪れる。原価管理が厳しくなるのも当然。DPE店の利益はフィルム現像代で担保される。いかにプリントの需要が残っても現像の要らないデジタルは直接DPE店の経営を圧迫する。人件費を除くと、実は印画紙のコストが一番大きいのだよ。あれほどのプリント分がロスとなっていては確かに上司も黙っていられまい。

そんなDPE屋として40年一筋に働いてきた老技術者サイの昏い孤独感がじつにせつない。プライバシーへの守秘義務など百も分かっていてなお、自身の仮想家族として写真に縁(よすが)を求めたその気持は理解できる。
サスペンスというカテゴリーに入れられているようだが、最後まで写真でケリをつけるDPE屋の意地までも描いて、ロビン・ウィリアムスだからこその哀しみの表現にじんわりするヒューマンな一本だった。
nero

nero