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太陽の舌、波打つ熱芯のneroのレビュー・感想・評価

太陽の舌、波打つ熱芯(2017年製作の映画)
4.0
「波打つ熱芯」って何? 原題通り「太陽の舌」だけでよかったと思う。劇中「太陽の舌が届くとき世界は終わる」という表現があり、太陽のスーパーフレアによる破滅だとわかる。隕石・彗星や地殻変動などではない、予測不能な突発的地球滅亡シナリオとして納得できる設定だし、シェルターなどでの生存の可能性も排除し、世界はほぼ同時に訪れる”その時”へ向かう。破滅確定時点での猶予もおそらくは長くて数か月というところだろう。

本作は、受け入れざるを得ないものとして認知されたその最後の日を迎えた男女二人の物語だ。全編二人の住むマンションの室内で進行する。劇中、犬の声やわずかなノイズ以外に外界の変化は描かれず、時折無人の自然や都市風景が挿入されるだけ。会話や室内のディテール描写も繊細で、混乱期をあえて描かず二人だけの世界に絞り込んだ構成を飽きさせず見せる手腕は確かだ。

中盤、そんな二人きりの世界に隣人の男性が最後のあいさつに訪問し、食事を共にする。必要だったか?と気になったが、彼の名はアンヘル、(スペイン語なので)エンドクレジットでようやくAngelだと分かって腑に落ちた。まあ世界の終わりを告げるというより、詫びにでも来たのかもしれないが・・・ 彼のせいではあるまいが、破滅を目前にして卵子着床に励む二人の姿は、最後に至っても希望を求める人の業ではあるのだろうけれど、否定はできない切なさを発している。諦観とも違う、絶望を超えた悟りとはこういう形なのかもしれない。
エンドシーンはマンションの屋上に裸で立つ二人。空は既に白熱しハレーション気味の光の中で抱き合う二人の姿で暗転。

たしかにセックスシーンばっかりだけど、ジャンルがラブロマンス/青春・アダルトとなっているのはどーなの? 「渚にて」の静謐さとラテンの静かなパッションを統合した究極ミニマルな世界滅亡SFドラマだった。宗教臭が無いのも好印象の良作。WOWOWでの視聴だったがこのジャンル表示のせいで録画し損ねた。いまのところ再放映予定はないようだ。もう一度見たい。
ところで、直截に連想したのは昨年読んだべろせ作「ハローグッバイ」(べろまん所載)。世界と性愛をつなぐ視線は同一だ。アダルトコミックではあるが、本作を気に入った方には一読をお薦めする。
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