映画大好きそーやさん

Kids Return キッズ・リターンの映画大好きそーやさんのレビュー・感想・評価

Kids Return キッズ・リターン(1996年製作の映画)
4.2
人はみな「青春」の只中にいるということ。
私生活の忙しさにかまけてレビューを書く手が止まっておりましたが、そろそろ書かないとと思い、本作についてレビューすることと相成りました。お待たせしてしまい申し訳ございません!
では、早速本編に入ってまいります。
盛者必衰というと少し外れているかもしれませんが、キャラクターたちの躍進と挫折が群像劇的に過不足なく描かれながら、ある種の「青春」に生きる私たちのために作られた、人間賛歌のように思えました。
久石譲が担当した劇伴の素晴らしさは当然として、誰しもが経験したであろう、人生のあるあるがあまりに人間臭いキャラクターたちによって紡がれていく様は、鏡写しの自分自身を見せられているようで、非常に心にくるものがありました。
多くのキャラクターを料理していくにあたって、視点の切り替えの多さから煩雑な脚本のようにも思えるかもしれませんが、そこにこそリアリティを見出すことができるような気がしています。
人生はそれほど理路整然と並んでいるものではありません。
それは本作の根底に流れる、北野武の哲学にも通ずるように思えます。
上手くいかないから、死んでしまうのか。上手くいかないことは、いけないことなのか。答えは勿論、否です。
上手くいかなくとも生きていくことはできますし、生きていればこそ上手くいくという概念が生まれ得ます。
上手くいかないからこそ、上手くいくように努力しようという心ももてるのだと考えています。
そんなままならない人生そのものを描き、その帰結にあの映画史に残る台詞を引き出すことで、この世界の人々誰をも包み込んでエールを送ってくれているのだと、私は解釈しました。
前回の『アキレスと亀』のレビューでも触れましたが、若干の文脈の違いはあれど輝かしい記憶の呪縛、忘れたくても忘れられない原点は、本作においても言うことができると思います。
「青春」は、一般にまだ年を重ねていない時代、いわゆる若い時代について指している言葉だと思いますが、広義では何らかに希望、期待を抱き始める時代のことを言うこともできるのではないでしょうか?
その意味で、輝かしい記憶の呪縛、忘れたくても忘れられない原点は、「青春」の延長線上にあると言えます。
「青春」はいつでも許されています。希望や期待は、いつでもどこでも誰にでもできるからです。本作は、そのことを何よりも強いドラマ性を以て示してくれています。
この強度は時間が経てど腐ることなく、寧ろ情報がインターネットの普及等によって膨大になり、一人一人が自らのチャンネルをもつことができるようになったからこそ、己の空虚感、虚無性に苛まれる人が多くなっているように感じる、現代を生きる私たちにとっては、更に強度が高まっていく内容となっているかと思います。
総じて、普遍的なメッセージ性に酔いしれる、いつまでも心に留めておきたい名作でした!