このレビューはネタバレを含みます
クルド人の葬式を取材にテレビクルーがど田舎を訪れるけど死ぬはずの婆さんがなかなか死なないお話。交尾しようとする牛が映り込んだカットがたまらない。
ロケーションと色味の美しさが途轍もない。生命力と荒涼が同居する風景。「この世は美しい」と映し出される風景が本当にため息が出る美しさ。
崖をへばりつくようにくり抜き、都市とは全く異なる合理性を感じるような入り組んだ通路。このお話にはこれ以上ないような場所のように感じました。それを切り取る構図もとにかく美しい。
ベーザードとファザードのハマり方も尋常じゃなく、彼らの会話や節々で見せる表情は、どうやって引き出したのか、とにかく美しい。クルーや穴掘り人と恋人など、画面には全く顔を出さない登場人物たち。コミカルさとともに、その個性が際立つ演出が余りに素晴らしいです。
何ということのないお話ながら、全く退屈さを感じない。カフェのおかみさんが印象的。喧嘩をしたらしき後の「帰ってくるな」が最高。
死ぬと思ったものが生き、生きると思ったものが死に、軋轢は容易には解消し難く、日常には埋没されない。しかし寄り添うようでも距離を残した撮影で、人生がどこまでも凝縮されているよう。医師と二人乗りの草原での会話は、物語を締めくくるに余りに相応しかったです。
根底にイスラム教的、というより中東土着の死生観が反映されているようにも思え、心地よい鷹揚さとともに生が肯定され、いつまでも観ていたい傑作でした。