タケオ

セシル・B/ザ・シネマ・ウォーズのタケオのレビュー・感想・評価

5.0
 1974年の「パトリシア・ハースト誘拐事件」をベースとした、ジョン・ウォーターズ率いる「ドリームランダーズ」の半自伝的なコメディ映画である。監督のジョン・ウォーターズは「主人公のセシル(スティーヴン・ドーフ)は僕じゃないよ」と否定しているが、拝金主義・良識主義に染まったハリウッドに対する痛烈な風刺を、ウォーターズ自身の"怒り"と"危機感"の表明として見ることも可能だろう。
 主人公のセシル・B・ディメンテッド率いる「スプロケット・ホールズ」は、アングラ映画をこよなく愛する映画テロリスト集団だ。拝金主義・良識主義に染まったハリウッドをぶち壊すためになら命を捨てることすら厭わない。「スプロケット・ホールズ」の面々は、端的にいってイカれている。もちろん世間にだって居場所はない。まるで「マンソン・ファミリー」のように。しかし「スプロケット・ホールズ」は、そんなことは全く気にしていない。何故なら「スプロケット・ホールズ」のメンバーは、側から見れば狂気的ともいえるテロリスト活動にこそ"真の多幸感"を見出しているからだ。「スプロケット・ホールズ」のメンバーに宿る狂気は、常に純粋なる「映画愛」と直結している。
 そもそもの話だが、イカれていない人間など一体何処にいるというのか。「拝金主義・良識主義に染まった腑抜けたハリウッドに狂人扱いされるのであれば、狂人であったほうが遥かにマシだ」という至極真っ当な主張が本作にはある。それは「スプロケット・ホールズ」の、そして僕たちアングラ映画ファンの魂からの叫びだ。そうして、側から見ればイカれているようにしか見えなかったはずの「スプロケット・ホールズ」の面々が、クライマックスに至ってアングラ映画を守るための「聖戦」に身を投じるシネマの戦士として煌々たる輝きを放ち出す。
 「アングラ映画にルールはない、エッジだけだ‼︎」ソウルのないブロックバスタームービーなんてクソ喰らえ、無害なだけのファミリー映画も地獄に堕ちろ。「アングラ映画」に宿る神々しいまでの輝きを信じる「スプロケット・ホールズ」の戦いは、僕の中でまだ続いているのだ。
タケオ

タケオ