るるびっち

離愁のるるびっちのレビュー・感想・評価

離愁(1946年製作の映画)
3.0
オーソン・ウェルズは、若い頃から老け役が多い印象だ。
話自体は古いメロドラマで大して面白くない。
しかも今と価値観が逆転しており、共感を得にくい。
時代が変わるとこうも常識は変わるものかと思う。

「夫を戦争で亡くした女性が、再婚後出征を望む息子を引き留めようとする話」
戦争を憎み、息子の出征を引き留めるのは現代人の感覚では当然と思える。
しかし本作は第二次大戦直後の作品で、ナチスの非道を責め米国の戦争参加を正当化する趣旨がある。そのため息子の出征を独り反対していた母親は、むしろ反省を促される。正義のためには昔は忘れて応援すべきという流れになる。
観ているこちらが置いてきぼりを食らう展開。
だから常識とか正義なんてもの程、あてにならないものはない。
時代が変われば、ひっくり返ってしまうものなのだ。

興味深いのはオーソン・ウェルズで、まだ30代になったばかりなのに随分年上のクローデット・コルベールの亡き夫を演じる。第一次大戦で死んだはずなのが、実は生きており負傷した顔を変えてコルベールの前に現れるというメロドラマ設定。
苦悩に満ちた顔つきや過去の行いにより人生を破滅させ、苦しみながらも元の妻を支えようと自己犠牲を払う。
ウェルズ自身の人生とオーバーラップして切ない。
才能に溺れて新聞王ナベツネじゃなくてハーストをイジリ倒し、そのせいで圧力をくらい映画界での成功を奪われた。
才能があり過ぎることが必ずしも幸せではない。
傲慢な天才の末路。
それを自分自身演じているみたいで痛々しい。
劇中で、生き残ったのに妻の元に戻らなかったのは彼の傲慢さのためだ。
過去は取り戻せない、過去の妻への詫びのために自己犠牲を払う。

若い時から老け顔メイクが似合うのは苦悩の表情が上手いからだが、それは演技ではなくウェルズ自身の人生が反映しているのではないか。と邪推している。
人をイジったらいけません。しっぺ返しをくらいます。
私は誰もイジってません!! ナベツネ? 誰ですかそれ?(ネタ古し)
(ナタリー・ウッドも天才子役ぶりを発揮している。43歳で謎の水死。やはり才能が幸せを呼ぶわけではない)
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