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007/慰めの報酬のymdのレビュー・感想・評価

007/慰めの報酬(2008年製作の映画)
3.2
『カジノ・ロワイヤル』からシームレスに続く続編。

基本的には前作路線を踏襲しているものの、監督が変わったことによるシフトチェンジもはっきり見て取れる。
前作はアクションとサスペンスフルな心理戦が巧いバランスで織り込まれている傑作だったのに対して、本作はアクションに比重を置いた肉体派な仕上がりになっているのが大きな特徴だ。

ただその要であるアクションがあまり良い出来とは思えず、全体的に交通整備が行き届いていない印象を受けてしまった。

前作を超えようとする気概を感じるダイナミックな演出は良いのだけど、細かいカットのつなぎ合わせとガチャガチャとしたアングルワークのせいでテンションが削がれてイマイチ盛り上がりに欠けると感じてしまうのである。

本作のボンドも前作にあったスマートさが大きく減じてしまっており、パワーで押し切る強引な展開も相まって、スパイ映画としての精緻さやスリルといった重要なポイントが抜け落ちてしまっている。

ただ今回のボンドガールであるカミーユ(オルガ・キュリレンコ)のキャラ造形はとても良かった。
ボンドと表裏一体と思わせる悲愴な過去を清算しようと奮闘するマジェスティックなスタイルは前作のヴェスパー(エヴァ・グリーン)とは一線を画しており、バンドは彼女とは恋仲ではなくバディ的な立ち位置として対峙することで両者の心の傷や隙間を埋めていく。

そのドライな関係性の描き方はとても秀逸だったし、彼女との邂逅があったことで、ボンドがスパイとしての矜持を再獲得していくことになるというプロットも素晴らしかった。

この映画の本筋はこの部分にあると思うのだけど、敵側の体制を不必要に感じてしまうほど複雑化してしまっているので物語全体のピントがボケてどこを注視するべきか非常に分かりづらい構成になってしまっているのが本作の致命的な欠点だと思うのである。

スパイ映画というジャンルにおいては政治的思惑や善悪二元論に収まらないグラデーションを描くことは定石だけど、本作は表層的にそこに注力してしまったことで肝心の”物語の核心”が煙に巻かれたように曖昧模糊とした印象を受けるのだと思う。

本シリーズの中では放映時間自体はかなりタイトな作りになっているのだけど、中身のブラッシュアップが間に合っていない結果、どうしても全体的に説明不足な感が否めなかった。

相変わらずダニエル・クレイグのハードボイルドな佇まいは素晴らしいし、映画のデザイン自体は好きなんだけど。
「もったいない」という感想がどうしても付きまとう。
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