BeSi

ストレンジャー・ザン・パラダイスのBeSiのレビュー・感想・評価

4.9
僕は今ジム・ジャームッシュワールドにハマって抜け出せなくなっています。ホントに観たくて観たくて仕方無くて、U-NEXTの1ヶ月無料体験で観ました。暫くはジム・ジャームッシュ祭りになりそうです。以下絶賛レビュー。長いです🙏🙏🙏

ニューヨークで暮らして10年になるハンガリー出身のウィリーは、叔母の頼みでブタペストからやってきた16歳の従妹エヴァを10日間だけの約束で預かることに。彼女との共同生活に乗り気ではなかったウィリーだが、さまざまな出来事を経て次第に打ち解け合う。


ここは率直な感想を。..............最高です。
この映画に深い意味なんて無いのかもしれません(こんなこと言ったら失礼ですが)。ずっと同じテンポで盛り上がりも無い。それなのに何でこんなに惹き込まれるんだろう。ジムにしか生み出すことの出来ないオフビートフィルムの快楽作用(?)が原因か。しかし、これまた登場人物たちの変なキャラクターも最高なんです。ギャグ漫画レベルで緩く生きるが全てを裏目に出してしまうウィリー。一見すると美しくてミステリアスだけど大胆不敵なエヴァ。そしてただただ良い奴のエディ。彼らの会話が流す空気の静けさは、画面越しでも伝わってきます。さらに、シュールとカオスが交錯することが多いため、度々複雑な感情に苛まれます。また、ワンカット終わるごとに挿入されるブラックアウトも、ストーリーの延長戦を描こうと意図しているようで感動しました。そりゃあカメラ・ドール受賞するよなぁ。今見てもかなり斬新なんですから。


ここは本作の隠れたテーマについて。ジムはコメディだと言っていますが、僕はラブストーリーの面も持ち合わせていると思います。以降語彙力皆無。

最初は10日間自分の家に従妹を預けることに嫌気が差していたウィリーですが、いざ10日経ってみるとどうでしょう。思いっきり上下に綻んでますよ彼の口元。エヴァの人柄ってアンニュイだけど大胆。あまり見かけない感じの女性(大人すぎん!?)だと思います。ウィリーはそれに惹かれたんですね。多分ね。それで1年後。エディ含め、エヴァの働く店で再会した3人。彼らはバカンスへ出かけることに。しかし何という災難。言うこと成すこと全部が裏目に出ちゃうウィリー。結果、エヴァはビキニまで持ってきたのに、3人はオフシーズンの海の砂浜をとぼとぼ歩くだけになってしまいます。そんでもって翌日にはエヴァを置いてウィリーとエディがギャンブルに出かける始末。怒って帰ろうとしたエヴァは麻薬の売人に間違われお金を受け取るというギャグ漫画みたいな展開のあと、独り空港へと向かいます。それに気づいた時には既に遅かったウィリー。空港へ向かいますがエヴァは飛行機に搭乗していました......と思いきや。エヴァは再びコテージへ戻ってきたのです。しかしそれにウィリーが気づくはずもなく終わるのでした......。

これってちょっと切なくないですか?どんなに酷いバカンスだとしても、エヴァは最後までウィリーたちと一緒に過ごしたかった。麻薬の売人に間違われて大金を貰った面白い話だってしたかった。それほどに大好きな人たちだから。ん〜......尊ぶものがあるなぁ🥹まあ一応は従妹だから連絡くらいは取り合えると思いますけどねー(適当)


ここは映画のタイトルの意味について。
直訳すると "楽園よりも奇妙な" となります。深読みしすぎかもしれませんが、この楽園は表面的に言えば、エヴァたち3人にとっては、バカンスが楽しめるフロリダですが、心情を考えると少し面白い。ウィリーたちの楽園は、エヴァのいるクリーヴランド。エヴァの楽園は、ウィリーたちのいるニューヨーク。お互いに、住み慣れた場所以外の栄えた所=楽園へ行ったことが無いということは、彼らにとって、フロリダないしニューヨークやクリーヴランドは奇妙に感じられるのでしょう。しかしその楽園よりも奇妙なわけですから、ウィリーたち3人の変な雰囲気や性格がタイトルに表れているのかなと考えます。劇中でも彼らの変人っぷりは鮮明に描かれてます。映画館のシーンとか特にヤバい。


何と心地よい90分だったか。ジム・ジャームッシュの出世作にして傑作。奇妙だけど愛らしい雰囲気が漂う、淡く美しいオムニバス映画です。大好き。
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