平野レミゼラブル

ファイナル・ガールズ 惨劇のシナリオの平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

3.8
【お約束を掻い潜り、親子愛を育み、最後に立った女となれ!】
『ハッピー・デス・デイ』や『ザ・スイッチ』といったブラムハウス製ワンアイデア一発勝負なホラー映画の前身とでも言うべきコメディホラーです。
内容は『13日の金曜日』に影響されて作られたであろうカルトスラッシャーホラー映画『血まみれのキャンプ場』のリバイバル上映中に火事が発生!!劇場から逃げようとした大学生の男女5人はスクリーンの中に取り込まれてしまう。映画の中から生きて脱出する為には映画の殺人鬼ビリーの魔の手から逃れなければならないが…というモノ。

要は80年代に粗製乱造されたスラッシャー映画を踏襲しつつ、メタ視点でスラッシャー映画あるあるを打破していくパロディ作品なんですね。殺人鬼は必ず非処女を狙うから生き残りたければ絶対に性交渉するなよ!ってアドバイスしたりとか、逆に殺人鬼をおびき出す為におもむろに服を脱ぎだすとかのお約束を利用したアイデアがどれも秀逸。
そして、いくら発想が面白いと言っても中身のないスラッシャー映画を題材にしたくらいだから尻すぼみはするでしょってナメてかかると、意外な部分から飛び出してくる親子愛要素でウルッと来てしまうんだから侮れません。
タイトルの「ファイナル・ガール」はホラー映画のスラングで「最後に残った女」…つまり殺人鬼を打倒する主人公なんですが、それを意味するものがどんどん転がっていくのも熱い。

やはり、映画の中というメタな視点が活きてくるネタがどれもキレキレなのが良いです。
前述通りちょっとでもエロの波動を感じるとやってくる風紀委員長ビリーの存在とか、殺人鬼ビリーが近づいてくると限りなくキッキッキマッマッマに近いBGMがどこからともなく聞こえてくるとか、回想に入ると急に世界がモノクロになって場所もワープするとか、上映時間の92分毎に世界がループするとか。
ある種の小ネタなんですけど、殺人鬼が迫ってもう逃れられない!!って局面で回想を始めて、襲撃キャンセル&強制ワープで回避するなど発展系のアイデアも滅茶苦茶キレてて面白い。物言わぬ殺人鬼が突然世界が灰色になったことに困惑し、車に撥ねられるところで爆笑してしまった。
映画内の登場人物も全員映画の中の役割に捕らわれていて、必ず決まった席につこうとしますし、ビッチキャラはもう特に理由もなく服を脱ぎたがるだけの痴女と化していたりするのが愉快。

また、本作で一番秀逸なのが冒頭で主人公マックスの不注意で事故死してしまったマックスの母親というのが、この『血まみれのキャンプ場』で最初に殺される役でカルト的人気を誇った女優という部分でして、映画の中に入ることでマックスは死んだ母親と再会を果たすんですよ。厳密に言うと、映画の中の母親は母親ではなく母親が演じた役なんですが、それでもマックスは彼女を救うことで母親への罪滅ぼしにしようとする。
あくまで疑似的な母親であるにも関わらず、映画の中の母親にも次第にマックスに対しての母性的な愛が芽生えてきて、冒頭での仲良さげな親子関係が垣間見えてくるところなんかが中々しんみり来ます。
そして、最終的な母娘の愛の帰結。それが結末部分に作用してくるため、コメディホラーとしては思わぬ感動を生むことになり不覚にも涙が。この親子愛部分が映画に意外なまでの深みを与えることに成功しています。

感動させて終わるかと思えば、お空にエンドロールが流れ出すちょっとした面白要素を残し、そしてホラー映画特有の二段落ち部分なんかにも洒落ッ気を感じる。
そこからさらにNGシーン集まで入れてくれるんだから完璧です。気持ち良い余韻すぎる。

一方スラッシャーホラーを題材にしたコメディ映画であるにも関わらず、全くといって良いほどゴアなシーンが無いのは本作最大の安心点にして問題点かもしれない。
いや、本作の本質は気軽に楽しめるコメディ要素にあるので、グロが一切無くたっていいんですが、そのコメディ要素にあたる「スラッシャー映画あるある」はスラッシャー映画観たことがある人に向けているため微妙に噛み合ってないんですよね……スラッシャー映画をある程度観た人はそれなりのゴアグロも求めているワケなので、それが全くない本作にはちょっとした物足りなさがある。
まあでも、スラッシャー映画のお約束って死亡フラグって言い換えれば万人が理解できるものではあるし、意外とその手の映画の造詣が深くなくても通じるっちゃ通じるか……そんな感じなんでグロ耐性無い人でもおすすめです。逆にグロ期待している人は肩透かし食らいます。

余談ですが、本作の女性吹替陣はタイアップでもしていたのか『Wake Up, Girls!』の声優陣で構成されています。お前、「ガールズ」の符号の一致だけで決めただろ!!というか『WUG』の存在、これ観るまですっかり忘れてたわ!!
謎吹替作品って結構あって、割と聞き応えがあることが多いのですが(コテコテのB級パニックなのに異様に豪華な『ピラニア3D』とか、新旧ドラえもんキャスト勢揃いな『武器人間』とか)、本作に限って言うなら無理矢理当て込んだなってキャストがちらほらいるので微妙……マジでやる気のない芸能人吹替よりは全然マシなんですが、若い時と歳を取った時の両方を演じ分ける必要がある主人公の母親役は特に無理があり、若手のキャストにやらせるべきではない役となっていました。まあ、銀幕の中に入ってからは若い時オンリー&演技も慣れたのか普通くらいには感じるんですが……

オススメ!