1972年1月に起きたイギリス軍による北アイルランドの公民権運動参加者への無差別発砲事件(通称、血の日曜日事件。14名が死亡し13名が負傷)を再現したドラマ。映画というよりも、再現フィルムという体裁に近い。
ポール・グリーングラスのドキュメンタリー・タッチの演出は、『ジェイソン・ボーン』のシリーズでも実証済みだが、この映画でも信じられないくらいのリアリティーで作っている。
特典映像で解ったのだが、臨場感を出す為に映画用の機材は一切使わなかったらしい。つまり、クレーンやドリーは一切使わず全てが手持ち。またライトも使用せず、室内も全て自然光で撮っている。それを知って余計びっくりした。こんな曇天のアイルランドでも自然光で撮れるのだ。そして多くのキャストも、キーになる出演者以外全て実際の場所の一般市民だ。
ある意味、丁寧に作った再現フィルムに何の意味があるのか、という見方もあるかも知れないが、映画によってその状況をあたかも当事者のように追体験出来るというのは、やはり映画でしか出来ない体験だ。そういう意味では非常に政治的な意図で作られた映画だし、敢えて作為と感じるものを一切排除した非ドラマ的なドラマという映画向きの素材だ。
こういう映画を見ると、政治的で良質なエンターテイメントが日本では一切なくなってしまったなあと思う。いや無くなってしまったのではなく、排除されてしまったのだが…。