「ハエが捕まっていないなら諦めるしかない。神を恐れぬ実験をした報いだ。
僕は自分と一緒に証拠を消さねばならない、僕の実験は危険が多すぎる。
死に方は考えてあるが君の助けが必要だ。
これ以上待てない、今朝から思考がまとまらなくなった。
脳が奇妙な事を言い始めている。意志が失われていく・・・、もう限界だ』
「宇宙戦争」のレビューで1967年の「火星人地球大襲撃」と1953年の「宇宙戦争」は子供の時にうんざりするほどTVで観た怖いSF映画の傑作です。と書いたのですが、もう一本忘れていました。
「蝿男の恐怖」(1958年)もやはりTVで何度も観た強烈な印象のSF映画です。
深夜、モントリオールのドランブル・ブラザーズ電子工業に忍び込みプレス機を動かす女性を夜警が見つけます。
フランソワ・ドランブルは弟の妻エレーヌから「夫のアンドレを殺した」という電話を受け、半信半疑でいると夜警から「プレス機で男が上半身を潰され死んでいます。弟さんの奥さんが逃げていきました」という電話がかかってきます。
フランソワは顔見知りのシャラス警部と工場に向かい、プレス機を確認すると、圧力は50トン・スペース0に設定が変えられ2度プレスされたアンドレの上半身は判別がつかないぼど押し潰されていました。
エレーヌは動機を話さず、アンドレの研究室を調べると20万ドルを掛けた装置が壊されていました。
アンドレは空軍の仕事で何かの研究をしていたのですが、フランソワは何の研究か知りませんでした。
エレーヌとその息子フィリップが頭と足の一本が白いハエを探していた事を知ったフランソワはエレーヌに、探しているハエを捕まえたと、嘘をつきシャラス警部を呼び出し事件の一部始終を聞き出します。
アンドレは転送装置の開発をしていたのです、アンドレの転送装置は箱の中の物質を一瞬で原子分解し、高速移動して離れたところにある別の箱に移するものです。ほとんどスタートレック(宇宙大作戦)に出てくるあれ(転送装置)です。
失敗を重ねた後、動物の転送に成功したアンドレは自らを転送したのですが、機械の中にハエが入り込んでいたため、アンドレとハエは装置で原子分解されアンドレの一部がハエと融合し、ハエの一部がアンドレと融合し転送されてしまいアンドレは左手を含む上半身がハエになってしまったのです。早急にアンドレの上半身を持ったハエを探し出し、再び転送装置で転送し元に戻る必要があったのです。
時間の経過と共にアンドレの精神は正常を保てなくなり、アンドレは気力を振り絞ってエレーヌと工場に来たのです。
2回のプレスの理由も辻褄が合い・・・。フランソワはエレーヌの話を信じたいのですが、白いハエは捕まっていない上に、証言を裏付けるものは全て灰になっているのです。
シャラス警部はエレーヌを精神異常として施設へ移すために再びアンドレの家を訪れます。
フランソワが途方にくれているとフィリップが「ハエを見つけたよ」と・・・。
シャラス警部を説き伏せる意外な結末に驚く名作SFです。鑑賞後、庭のクモの巣に白い頭のハエを探した思い出があります。
ジョルジュ・ランジュランの小説『蝿』を映画化した『蝿男の恐怖』の原題は「The Fly」。
1986年にリメイクされた映画『ザ・フライ』は大ヒットしているのですが偏屈な私は『蝿男の恐怖』のイメージが大切で観ていません。
映画『ザ・フライ』は1989年の続編『ザ・フライ2 二世誕生』との二部構成なのですが、『蝿男の恐怖』は、翌年1959年の『蝿男の逆襲』の後、1965年には第三話『蝿男の呪い』が製作され、アンドレの息子・孫の話が其々描かれていますが第三話はあまり知られていません。もちろん私はコレクションしています。
『蝿男の恐怖』はカラーですが、二話・三話はモノクロ作品です。第一話に比べると内容はどんどん劣化していくのもあるのですが、まだまだカラーフィルムが貴重(高価)だったのでしょうね。
フランソワ・ドランブルを演じるのはピーター・カッシング、クリストファー・リーと肩を並べる「三大怪奇スター」ヴィンセント・プライスです。マイケル・ジャクソンの「スリラー」のナレーションで聞きなれたあの声の持ち主です。この映画を観ると誘い水のように「スリラー」を観たくなってしまいます。
古の映画は本当に良い。