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H・P・ラヴクラフトの ダンウィッチの怪のhorahukiのレビュー・感想・評価

3.5
死は魂の馬車となる…

村に住む頭がおかしい一家は良からぬものを信仰していた。生贄の儀式のもと、旧支配者の復活を目論む一家の跡取り息子と、それを防ごうとするそっち方面に詳しそうなジジイの水面下での攻防を描いたオカルトホラー。

ロジャーコーマン作品で美術を担当していたダニエルホラー(ハラー)監督による同名原作の映画化作品。ラヴクラフトは全集の1と2しか読んでないのでこれの原作は未読ですが、結構改変されてるようですね。

本作もひっそりとレンタル開始してたので、いつも通り取寄せして借りてきました。同じくラヴクラフト原作の『襲い狂う呪い』があんまりハマらなかったんだけど、こちらは好きでした。

今回ハラーは美術担当にクレジットされていませんが、ゴシックムード溢れる屋敷の内装が素晴らしく、恐らくアドバイス的なことはしてんじゃないのかなって勝手に思ってます。

貧しいながらも価値観を共有することで平穏を保つ田舎村に住む異教徒は、キリスト教が支配する村にあっては当然のごとく除け者にされてしまう。本作においてはキリスト教と邪教の対立として描かれてはいますが、それは日本人にとってもより身近な価値観の対立の象徴なわけで、多数派が少数派を迫害し排除することで(多数派にとっての)平穏を取り戻すという極めて暴力的な行ない。

所属する共同体と価値観を異にする者は、ヒッソリと内にこもって暮らすしかなく、それにより一応の平穏が齎されてたわけだけど、若い跡取りには一方的に虐げられる生活が我慢ならない。旧支配者の復活を真剣に目論む彼の行動は不当な迫害に対して「信念の正当性」を最も強烈なやり方で突きつける最後の切り札だったわけで、悲鳴にも似た叫びだったのだなと思って辛くなった。

本作の場合、邪教への信仰が先祖に対する信仰にも繋がり、迫害により周囲の人間を一切信頼できなくなった彼が自身の信念の矛先を先祖へ向ける内向性が、その悲痛さに拍車をかけるし、決して開けられない扉の向こうにいる彼は何かしらの障がいを抱えていたのだろうから、彼への人々の対応により多様性が認められない社会での生きづらさというのが際立ってくる。

化物が出てきて暴れまくるような派手さはないですが、何か良からぬものが彼方側からいつなだれ込んで来てもおかしくないような現実の脆弱さや不穏感をジットリと高めていく物語は好きだったし、強烈な色彩を使った外連味のある「怪物」のシーンはツボでした。

これまためちゃくちゃ評価低い作品ですが、私には結構ツボりました。面白かったんだけど、もともとマリオバーヴァで計画されてたようなので、そこが凄く残念…。バーヴァが監督してたら傑作になってた可能性が…。
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