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タイム・オブ・ザ・ウルフのRのレビュー・感想・評価

タイム・オブ・ザ・ウルフ(2003年製作の映画)
4.3
めちゃくちゃ久しぶりに見てみた。多分3回目。いや、まさかハネケの映画に泣かされるとは思わなかった。ビックリ。ちなみに、1回目見たときは、全然おもんな、と思って、2回目はおもしろい!と思って、3回目で涙とまらず。テーマは世界の終わり。何が原因かは分からないが、とにかく世界が終わりかけている。その原因は一体何なのか?みたいなのを追求していく内容では全くなく、終焉に瀕したときに剥き出しになる人間の本性を描いた映画なので、注意が必要。何で?ってとこに目がいくとひたすらポイントをミスします。冒頭、主人公一家が滅びた街を逃れ、食料を携えて田舎の別荘に到着すると、そこに別の一家が住み着いてて、その家族のおっさんにいきなり旦那を撃ち殺され、突然のショックで妻がゲロを吐く、という衝撃的なシーンから始まる。で、そのとんでもない一家に食料も居場所も奪われ、あてのない放浪の旅に出る奥さんと娘と息子。そこからしばらく彼らが荒野を歩いて進んでいくシーンが続いて、この辺は暗いシーンが多く、DVDやと少々見にくいのもあって眠くなるのだが、電車が来るのを待ちながら駅で暮らしてる集団に彼らが合流してから、だんだん面白くなってくる。んー、面白いってか見るのがしんどくなる。みんな物資そんなになくてギリギリで暮らしてるから、自分のことしか考えられなくなってる。イライラを当たり散らしてる女がいたり、空腹でギャーギャー泣きわめいてる子供がいたり、性欲を抑えきれないおっさんがいたり、殴り合いのケンカをする奴が出てきたり。そして、何より、未来に対する希望なくただ生存のためだけに苦悩のなか暮らしてる様子を見てると、ホントに気が滅入ってくる。うんざりしてくる。数あるサディスティックなハネケ作品のなかで、ひょっとするとこれがいちばん意地悪な設定かもしれない。ほぼ全編いやーな閉塞的ムードやから、途中でダルくなって見るのやめたくなるシーンすらある。女が延々と泣き叫んでるあのシーンはまじキツい。ところが、大変興味深いことに、そんな最悪な状況のなかでも人間らしい行動を取れる人たちがいて、やっぱ人間らしさというのは、自己の生存欲求を超えた行動ができる、ということなんだなーと、しみじみ感じさせられる。それはとてもやわらかくてやさしくてほっとする瞬間なのです。とはいえ、依然、無情な状況は続きます。途中から人数が増えて結構ごちゃごちゃしてきて、重要な部分がどこなのか若干見えにくくなるんやけど、36人の正義の団員のお話と、ポーランド移民に殴り合いのケンカをふっかける男の顔は絶対注目!!! 胸糞悪い対立シーンがいくつも重ねられて、人間の汚い部分がどんどん露わになっていき、うわー、もーいややー、みたいなんばかりが続いたあとで、まさかのエンディングが訪れます。人間の中に存在しうる至上の美しさが予想外なところから顕われる。その純粋さに激しく心うたれる。そして、完璧な善人がいないのと同じで、完璧な悪人もいない、そんな人間のリアリティを最後の最後に見せられて、うわーーーーーってなりました。胸がうわーーーーー。まじかーーーー。涙とまらねーーーー。すごく静かだが、すごく美しく力強いエンディングだった。ほんとすばらしかった!!!
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