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東北タイの子のwigglingのレビュー・感想・評価

東北タイの子(1982年製作の映画)
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アピチャッポン・イン・ザ・ウッズ2016 アンコール!にて。

アピ監督関連作品として彼の故郷タイ東北部イサーン地方を描いた作品が併映されてて、本作はその一本。本当に、本当に素晴らしい作品です。

タイの国民的作家カムプーン・ブンタウイー(1928-2003)が幼い頃に過ごしたイサーン地方の暮らしを描いた著書が原作。てことは1930年代が舞台でしょうか。
貧しいながらもその生き生きとした暮らしには、利便性と個人主義を謳歌する現代人にも響くものがあると感じました。

イサーンは干ばつに遭うことが多く農民は慢性的に苦しい生活を強いられていたそうで。農作物が育たないので動物や昆虫が主要な食料に。動くものは人間以外なんでも食べちゃう。トカゲもカエルもアリも貴重な栄養源。
獲物を獲るシーンも面白くて、マングース狩りなんて走って捕まえる、ただそれだけですよ。貴族が趣味でやる狩りじゃなくて生きるための狩り、切実さは雲泥の差。

性愛についても実に開けっぴろげ。露骨さはないけど、人間の三大欲求がストレートに描写されています。
ひと組の男女の結婚までの経緯が描かれるんだけど、これが実に可愛らしいというか、現代の恋愛事情の複雑さが浮き彫りになるような。

そして食料確保のために遠く離れた川まで魚を捕る長旅に出る。数台の牛車で結構な規模の旅団を組んで。
諸々のトラブルを克服して食料を持ち帰ることに成功する。でも、だったら川のそばに引っ越せばいいじゃんと思うんだけどそれはしない。いくら貧しい土地でも先祖代々住み続けた土地は離れられないのだと。
そういう考え方が完全に欠落している自分としては、故郷を持つとは何なのかと考えこんでしまいます。

タイの山岳民族の中には本作で描かれたような貧しい暮らしの人々がたくさんいるそうで、決して過去の話ではないとのこと。
タイというとバンコクやパタヤビーチを思い起こす人にこそ本作を観ていただきたいですね。

イサーンの風俗のなかでもモーラムという音楽がとても面白くて本編にも登場します。そこで使われるケーンという竹製ハーモニカのような楽器が凄くてですね。ケーンの音が聞こえるだけで意識がタイに飛んでしまうようになってしまいました。
2016年はタイのことを集中的に学ぶ年だったので、2017年は現地を体験してみたいなと。

アピチャッポン作品はもちろん、空族の『バンコクナイツ』とも直結する映画なので、そっち系のファンなら観ておいた方が良いと思いますよ。
なかなか観るのは難しいと思いますが...
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