平野レミゼラブル

シェーンの平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

シェーン(1953年製作の映画)
4.5
【馬鹿な男のコの源流。シェーン!カムバック!!】
≪N.E.M.新録版鑑賞感想≫
(2020/9/6鑑賞)
■キャスト
シェーン:津田健次郎
ジョー・スターレット:森久保祥太郎
ルーフ・ライカー:石井康嗣
https://twitter.com/NEMofficial3/status/1196406916089405440

シネマ・ロサでやっていた名作洋画を現在の人気声優で吹き替える「New Era Movie(N.E.M.)」プロジェクト第5弾はシリーズの予告を聴いた中でも特に期待していた一作で、実際に観てみたらN.E.M.シリーズ最高傑作じゃねェーの!?っていうくらいに素晴らしい作品でした……
だって!だってだよ!!だって主人公の寡黙で無敵のガンマンなシェーンの声が津田健次郎なんだよ!!??開口一番ノックアウト級の低音ボイス。ぐはァ…格好良い……格好良すぎる………!!

もう第一声からあまりの渋さに悶絶していたのに、その後も口を開く度に惚れ直すしかないんだから堪らない。しかし、シェーンは寡黙な男なので中々喋らないというジレンマ。いや、むしろたまに聴こえるからこそ、ツダケンボイスの価値がさらに高まり余計に魅力的に聴こえるのか……
彼と対象的にお喋りなジョー(これも森久保祥太郎を起用するという完璧な判断!)が思わず言葉を噤んでしまう場面で、助け舟を出すようにシェーンが言葉を繋げるってのも最高ですね。やっぱり普段喋らないからこそ、喋った時の格好良さが際立つのだなあ……シブいねェ…まったくおたくシブイぜ……
際立つと言えば、声優界の悪役商会こと石井康嗣さんも相変わらずの憎たらしいまでの悪役演技でシェーンのヒーロー性を引き立ててくれて良い感じです。

物語はふらっと現れたワケ有りの流れ者が善良な家族に用心棒として雇われて、彼らと交流を深める内にやがて平和を脅かすならず者へ静かな怒りを滾らせ決闘に臨む……と、西部劇やそれに影響を受けた時代劇のテンプレといった感じで良く言えば王道ですが、まあ令和にもなった今観たらまず真新しいとは言えないプロットです。
シェーンが最終的に暴力や人殺しを否定するというこれまでの西部劇のアンチテーゼである…というのも公開当時であればそりゃ革新的でしょうが、それこそ『トライガン』や『るろうに剣心』を読んで育った身としてはとっくに通った道であり、これらの作品の偉大なる先達以上の価値は一見なさそうに思えます。

しかし!本作はそんな後進の作品にも負けないと断言できる格好良さに溢れています!!
全ての馬鹿な男のコの作品の源流でも言いましょうか。僕が今年のベスト1にすると決めた『フォードvsフェラーリ』にも繋がる実にアツく、そして好みド真ン中の泥臭い殴り愛があるんですよ…!

自分の手で悪党を殺し家族を守ると決心するジョー。
殺しをすれば戻れなくなると知っているからこそジョーではなく俺が殺さねばならぬと誓うシェーン。
「殺す」しか手段がないなんて馬鹿じゃないの!?悪党なんて無視して他の土地でやり直すべきでしょ!!っていうのはジョーの奥さんによる正論です。それは正しいです。全くもって正しい。
……正しいのだけれども、男たるもの絶対に退いてはいけない場面ってのはあるのです。ガキのような意地です。馬鹿なプライドです。それでも、それらはお互いに捨ててはならない大切なもので、だからこそ男のコとしての意地とプライドを賭けて殴り合わなければならない!!もうこれは普遍不朽、いつ見たって胸が熱くなる男の喧嘩道なのですよ!!!

殴り合いの末に映るのが序盤でジョーが抜いた切り株ってのも滅茶苦茶良いんだ……
この切り株はジョーが土地を開拓し始めた時から抜くのに悪戦苦闘していたという代物。奥さんはその時も「素手で抜こうとせずに馬に引かせて抜けばいいのに」と至極当然合理的な提案をしているのですが、ジョーは「ここで馬を使ったら俺の負けになる!」と突っぱねていたのです。
要はこの切り株、馬鹿な男のコの象徴なんですよ!馬鹿なことはわかってる…わかっちゃいるがやめるわけにはいかねェ!!この暗喩がもう堪んない!!

もうこんな熱すぎるにも程があるシーンを入れたもんだから、その後のシェーンの決闘も、ジョーの息子に諭す教えも、颯爽と去っていく姿も全てが最高の気持ちのまま摂取できちゃう。
敢えて一つ突っ込むならば、ガキと犬が馬に追いすがれるほどに脚も早ければ、スタミナもありすぎる…!ってことでしょうが、もう難点として挙げるには無粋もいいとこなんで、笑い話として突っ込むに留めておきます。

そして、新録版でも健在の名言「シェーン!!カムバーーーーーック!!!」の掛け声……!
シェーンは後ろ姿を映すのみですが、今でもその黄金の精神を受け継ぐ作品が次々と現れていることを考えると、シェーンは見事にカムバックしたと結論付けるべきではないでしょうか。

超絶オススメ!!!!!!