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危機一髪!西半球最後の日のCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

危機一髪!西半球最後の日(1968年製作の映画)
3.8
【ウィリアム・キャッスルが『インセプション』のような映画を撮っていた件】
先日、『ティングラー/背すじに潜む恐怖』でギミックの帝王ウィリアム・キャッスルを知ったのだが、調べれば調べるほど彼から面白いエピソードや日本ではあまり紹介されていないユニークな映画が出てくる。彼といえば『地獄へつづく部屋』、『ティングラー 背すじに潜む恐怖』、『13ゴースト』とホラー映画のイメージが強いのですが、それは割と後期であり、元々はフィルムノワール作家だった。50年代に西部劇や冒険活劇に手を伸ばし、『Fort Ti 』、『Jesse James vs. the Daltons』で3D西部劇に活路を見出していた。また、デスノートのような映画を作ったり、上映中の投票で映画の展開が変わる方式(実際にはハッタリだったらしい)を生み出していた。彼の伝記映画が作られたら面白そうだなと思う。

さて、調べている中で一本の映画に出会った。"Project X"こと『危機一髪!西半球最後の日』だ。L. P. デイヴィスの「虚構の男」、「Psychogeist」を基にした映画なのですが、あらすじを読んで驚いた。もろ『インセプション』だったのです。スパイが重要な情報を持ち帰るも敵の策略によって記憶喪失になってしまう。そんな彼から情報を入手しようと、スパイたちが偽の記憶を植え付け脳をハッキングするという内容なのです。クリストファー・ノーランがこの映画、または原作から影響受けた話は聞いたことないのですが、少なくともウィリアム・キャッスル版の『インセプション』が観られることだけでも嬉しい。

というわけで感想を書いていきます。

今見るとクラシカルな色彩、ヴィジュアルに包まれたスパイ基地から物語は始まる。ハーゲン・アーノルド(クリストファー・ジョージ)は重要な情報を入手して帰ってくるが、東洋の組織の手によって重要情報の記憶はブロックされてしまった。冷凍睡眠で眠られ、職員がしきりに脳内ハッキングしているが「14日後に西洋は破壊される」というメッセージしか引き出せなかった。

そんな中、1960年代にヒントがあることが分かる。そこで、1960年代を仮想環境で再現。そこにハーゲン・アーノルドを配置し、スタッフ一同彼の行動をコントロールし情報を盗み出そうとするのだ。

役者は揃った。仮想環境で、壮大なドッキリを仕掛ける。ウィリアム・キャッスルが上手いのは、ハリウッド大作ばりの壮大なスケールながら、ロケーションを最小限に抑えているところにある。頻繁に仮想環境と研究所を出入りすることで、「仮想環境に入り直している」という状況を用意する。これにより、自然の中にポツンと立つ小屋のみのロケーションでダイナミックな動きを演出することに成功している。

そして、西国スパイ総動員で脳内ハッキングするドサクサに紛れて、新たなスパイが現れ現場を掻き乱したりと、物語的ツイストもあって観ていてとても楽しい。

極めつけは、脳内ヴィジョンの歪みを表現するためにアニメーションやサイケデリックな合成が使われていることにあるだろう。研究所、非SFチックな60年代描写、サイケデリックな画を巧みに行き来することで『インセプション』における階層を表現しているところにグッと来た。

脳にヴィジョンを見せつければ、人間は延々に生きられるといったSFアニメではお馴染みの描写もあったりして、これは日本でも再評価されてほしいなと思った。
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