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吸血鬼ボボラカのhorahukiのレビュー・感想・評価

吸血鬼ボボラカ(1945年製作の映画)
3.9
吸血鬼は誰か…?

リュートン×ロブソンによるRKOホラー。
疫病が蔓延した孤島。本土への感染拡大を防ぐため自主隔離→死者が出始める。「吸血鬼が自分たちの中に潜んでいる!」と主張する宗教オバさんと「迷信うぜぇ疫病だからw」と突っぱねるカーロフ。閉鎖環境で壊れていく人々を描いたソリッドシチュな良作!

一度踏み込んだら生きては出られない。そんな死の島を描いた本作。目的のためならどんなことも厭わない冷徹将軍カーロフが亡き妻の墓参りにその島に訪れる。でも墓荒らしのせいで、もぬけの殻。しかもそのタイミングで疫病発生→本土に帰れなくなるという踏んだり蹴ったり具合が可哀想…😭

島の入口にはケルベロスの像が門番として配置され、そこが地獄の入口であるということが示される。疫病の恐怖に蝕まれ、最初は「手を洗っとけば大丈夫!南風になれば収束するから!」と医者の言うことを信じていたけれど、医者も疫病になり死亡。精神的支柱を失ったカーロフも次第に吸血鬼ボボラカの存在を信じ始める。

誰もが「全員無事で脱出したい」と考えていたにも関わらず、先行きの見えない疫病という地獄の中、心の中に「魔」が巣食い、疑心暗鬼が生まれ始める。リアルタイム製作の映画かな?って思えてしまうくらいに他人事とは思えない脚本が面白かった🤣

戦争(本作はバルカン戦争)を背景に置くのは『第七の犠牲者』と同様。「他者が作ったルール」の中に心の拠り所を求め、それを盲信することで得られる偽物の安心感に踊らされる人々を描き、その弱さこそが「悪魔」だと説く。怪異を人の心へと求めるのは流石のリュートンで、その弱さが本来持っているはずの善性すら狂わせていく…というのは『第七の犠牲者』よりも少しポジティブに移行しているように思う。この後に『恐怖の精神病院』を製作すると考えると、戦後への反映のもと意図された懸念を取り入れているようで面白い!

暗雲たちこめる戦死者だらけの中をランプひとつで進むトラッキングと、大量の死体を乗せた車との交差、島でのケルベロスを過ぎた後の彼方への門を潜るかのような一本道と木々のザワメキ。そんな冒頭から凄みを醸し出す映像の迫力が良かったし、『早すぎた埋葬』後の「幽霊」の幻想的な美しさを表情を決して見せず影の中で違和感として盛り上げるのもすんごいリュートンらしくて良かった!
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