わたがし

ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日のわたがしのレビュー・感想・評価

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 劇場公開ぶりに観返した。当時はつまんねえ話だなと思ったけど今観ると沁みた。現実でも御伽噺でもない「真実」を語る映画で、ラストショットで3Dカラー映像が色褪せた2Dになって暗転する。『ザ・ウォーク』『ヒューゴの不思議な発明』と並ぶレベルの「3Dで観ないと意味を成さない映画」と思う。言ってることも語り方もすごくゼメキスに近くて、思い返すとアン・リーという作家そもそもが割とゼメキスと似てるところが多い気がしてきた。
 主人公が宗教を信じるしかないぐらい過酷な状況に投げ込まれて身体を動かしながら信念を転がしていくという昔話を、信用ならない語り手がファンタジックなトーンで描く。当然サバイバルものとしての切迫感とか泥臭さはなく、でもそれこそがこの映画の肝であり、最後は『ビッグ・フィッシュ』的な感動がある。
 こういうストーリーを3Dでハイパーリアルに描いたり飛び出し演出で煽ったりしながら人工的に語ることの意義深さにため息が出る。(3Dブルーレイで観た限りは)立体視差はそんなに強くないけど演出がちゃんと活きてるしフレームブレイクもある。本当に素晴らしい大衆芸術。
 単純に技術ポイントとしてはやっぱり船の沈没シーンの3Dがすごい。水面スレスレでやや傾いたアングルで溺れそうな主人公を映すショットの緊張感は(当時劇場で予告観る度に息を吞んでた)何回観ても感動する。トラ等のCGアニマルたちもアニメキャラスレスレで表情挙動豊かで、このバランス感覚がちょっとでもズレるとラストのビック・フィッシュ感動にまで到達できなかっただろうなと考えるとすごい塩梅。綺麗な毛並もしょっちゅう海水で濡れるVFXアーティスト地獄。アン・リーの頭のおかしさにはいつも頭があがらないね
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