カツマ

東ベルリンから来た女のカツマのレビュー・感想・評価

東ベルリンから来た女(2012年製作の映画)
4.0
運命は車輪のように回りゆく。それは強風に煽られカラカラと音を立てては、カチカチと右に左にメトロノームの振り子のごとく揺れ動く。彼女は境界線の上に立ち、移ろいゆく愛の所在は掴めないまま。射抜くような瞳の先が見つめているのは、究極の選択とも言える強き心の現れだった。それは閉ざされた国の片隅にあった小さな愛の物語。

今年の初頭には最新作『未来を乗り換えた男』も公開されたばかりの、クリスティアン・ペッツォルト監督が、ニーナ・ホスと5度目のタッグを組み、ベルリン映画祭では銀熊賞(監督賞)も受賞、監督の代表作と呼べる作品だろう。ベルリンの壁崩壊前の東ドイツを舞台に、二つの恋の合間で揺れるバルバラの心の機微を、僅かな表情の変化や少ないセリフ、叙情的なカットに偲ばせた、凛とした大人のドラマを作り上げてみせた。

〜あらすじ〜

ベルリンの壁崩壊前の1980年、そこは東ドイツの片田舎の病院。東ベルリンから左遷されてきた医師バルバラは、常にピリピリとした緊張感を身に纏い、周りと打ち解ける様子もない。そこで同僚の医師アンドレは彼女を何かと気にかけるも、すげなく無視されてしまう始末であった。
そもそもバルバラは西ドイツへの出国要請を却下され左遷されてきた、政府からすれば要注意人物。彼女の住まいにも秘密警察のガサ入れが入るのが日常茶飯事となっていた。
それでもアンドレは何とか彼女の気を引こうと話しかけるも、そのたびに冷たい反応を返されてしまい、取り付く島もない。そんな最中、バルバラとアンドレの元へ、矯正施設から逃げ出した前科を持つ少女ステラが髄膜炎で緊急搬送されてきて・・。

〜見どころと感想〜

淡々としながらもベルリンの壁崩壊前の東ドイツの現状を示唆する舞台設定が徹底されている。西側への出国は難しく、バルバラのようにベルリンから飛ばされ、まるでスパイ扱いされるかのような非人道的な立場へと追いやられることになる。
中盤から物語の中枢に切り込んでくるステラの入所する矯正施設の過酷さもまた、社会主義国家東ドイツの闇の一つだろう。
だが、この映画はそれだけではなく、社会主義国家を体現する秘密警察の人間もまた人間なのだ、ということも暗示させる描写がサラリとだが印象的なシーンとして語られている。

『あの日のように抱きしめて』でも共演しているニーナ・ホスとロナルト・ツェアフェルトだが、特にニーナの変幻自在の演じ分けが見事であった。『あの日のように〜』の夫を追いかける女性像とは大きく異なり、今作では煙草の似合う芯の強さを感じさせる、美しくも逞しい女性像を演じ抜いた。
東ドイツの闇を感じさせるクリスティアン・ペッツォルトの作風だが、ラブストーリーとしても感傷的な陰影と共に忘れ得ぬ余韻を残してくれる。この作品もまた、自分の中ではロマンチックな終わり方だったのかなと思いました。

〜あとがき〜

自分の趣味にバッチリと合う監督クリスティアン・ペッツォルトですが、今作もまたどストライクでした。説明の少なさや、さり気ない会話の中から設定を導き出す必要があるのですが、そんな豪快な省き要素もまた理解できるレベルで描かれているので、分かりづらくはない作品ですね。

今作では強き女性像を演じたニーナ・ホスですが、その立ち姿にすっかり魅了されてしまいました。ペッツォルト監督と彼女の過去の共演作をもっと観たいですが、ソフトとしては見つからないので、いつかリバイバル上映などしてくれる機会があればいいなぁと思いますね。
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