YYamada

もうひとりの息子のYYamadaのレビュー・感想・評価

もうひとりの息子(2012年製作の映画)
4.1
みんなで観よう【みんかい?】指定作品
『もうひとりの息子』

◆製作国: 🇫🇷フランス
◆製作年: 2012年
◆ジャンル: 人間ドラマ
◆受賞歴:
・2012年 東京国際映画祭 /
最高賞、優秀監督賞

〈本作の粗筋〉
・テルアビブに暮らす、フランス系イスラエル人の18歳の青年が兵役検査を受け、その結果、家族と血縁にないという信じ難い事実が判明。18年前の湾岸戦争の混乱のなか病院で別の新生児と取り違えられていたのだ。
・やがてその取り違えられた2つの家族は「壁」で隔てられたイスラエルとパレスチナにあることを知る…。

〈見処〉
①母さん、僕は「敵」ですか?
 民族対立を越える珠玉の人間ドラマ。
・『もうひとりの息子』(原題: Le Fils del'Autre)は、2012年にフランスで製作された人間ドラマ。
・取り違えた家族が対立する民族だったら…。四国ほどの狭い面積のイスラエルに居住するユダヤ人とアラブ人の間に存在する宗教・領土・社会格差・報復の連鎖の対立構図を前提とした難テーマをユダヤ系フランス人女性監督のロレーヌ・レヴィにより、感動的な作品として描かれている。
・レヴィ監督は、本作の日本公開に合わせ2013年10月に来日。イスラエル・パレスチナ駐日両大使を招待したユニセフ主催による画期的な上映会に参加している。

②ユダヤ人とアラブ人
・異民族にも関わらず、新生児の取り違えは起きるのは、ユダヤ人もアラブ人も生態上の「人種」ではなく、言語・文化・宗教などのアイデンティティによるもので、外見の判別は出来ないため。
・とくにユダヤ教は他民族の教徒を認めないにもかかわらず、イスラエルが国民を増やす目的で定めた帰還法によって「誰がユダヤ人か」は複雑である。

③フランスとパレスチナ問題
・イスラエルのプロデューサーが合作拒否したほどの難テーマの作品を製作したフランス。在日フランス大使館HPには、日本語にて「フランスはイスラエル・パレスチナのどちらを支持するか?」「フランスが主張する解決策は?」など、根深いパレスチナ問題のフランス政府見解が明示されている。
・フランスがパレスチナ問題に取り組むのは欧州最大、世界でも3番目にユダヤ人比率が高い国家であり、自国の安全保障上避けては通れない問題であること、そしてフランスもパレスチナ問題の利権上の当事者であることが挙げられる。
・肥沃なパレスチナ地区は、古くは十字軍やナポレオン遠征など世界史の舞台として登場。16世紀以降はオスマントルコ帝国の一部としてイスラム・キリスト・ユダヤ教徒が共栄していたが、19世紀の西欧諸国の中東進出により、オスマン帝国は弱体化。「独立を目指すアラブ民族主義」「ユダヤ人の民族国家建設の動き」が加速。
・パレスチナ問題が決定的な民族対立を生んだのは、国力衰退にあるイギリスが第一次世界大戦の資金調達のため「ユダヤ人に対するパレスチナ地区のユダヤ国家建設支持」「アラブ人に対するパレスチナ独立支持」「フランスに対する戦勝後の分割統治」を秘密裏に結んだ「3枚舌外交」によるもの。
・戦争は英仏同盟の勝利により、パレスチナとヨルダンはイギリス、レバノンとシリアはフランスの委任統治領となったものの、イギリスによるアラブとユダヤに約束を反古したことが民族主義の衝突の芽となった。パレスチナ問題は、モーゼの時代まで遡る必要はなく、わずか100年前に起因しているのである。

④結び…本作の見処は?
知名度なしが不思議なくらいの傑作!
◎: パレスチナ問題を題材に、相手を受容する家族愛こそが、相反するアイデンティティと共存する答えであることを描いている。脇役であるはずのパレスチナ側(アラブ)家族の長男の心の遷移こそが本作の見どころだと思う。
◎: 我が子の取り違えという不幸な事故に対して、瞬時に母性愛を現す2人の母親と、アイデンティティ(=世間体)を杞憂する2人の父親。男女によって異なる感情が印象的である。
○: テルアビブの分離壁や検問所、テルアビブとパレスチナの貧富差を感じずにはいられないロケ地など、火種を抱えた緊張感あるロケーションは、他作品ではなかなかお目にかかれない。
○: 105分という程好い上映時間。弛んだシーンがなく、集中力切らさず鑑賞出来る。
▲: 非常に良く出来た脚本であるが、通行証が容易に手配出来るキャラクター設定に少々、映画ならではのご都合主義を感じる。

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イスラエル、パレスチナ、アメリカ、イギリス、ドイツでは決して製作出来ない難テーマを感動作品に仕上げたフランス映画の度量の深さに感服。

本作を選定されたやましんさん、大当たり作品でした。ありがとうございます!
YYamada

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