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オッペンハイマーのYYamadaのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.1
【戴冠!アカデミー作品賞】
 第96回 (2023) アカデミー7部門受賞
 (作品・監督・主演男優・助演男優・編集・撮影・作曲)

【ヒューマンドラマのススメ】
 ~映画を通じて人生を学ぶ
◆作品名:
オッペンハイマー (2023)
◆主人公のポジション
世界の運命を握った天才科学者
◆該当する人間感情
 誇り、冷笑、自責、嫉妬

〈本作の粗筋〉 eiga.comより抜粋
・第2次世界大戦中、才能にあふれた物理学者のロバート・オッペンハイマーは、核開発を急ぐ米政府のマンハッタン計画において、原爆開発プロジェクトの委員長に任命される。
・しかし、実験で原爆の威力を目の当たりにし、さらにはそれが実戦で投下され、恐るべき大量破壊兵器を生み出したことに衝撃を受けたオッペンハイマーは、戦後、さらなる威力をもった水素爆弾の開発に反対するようになるが…。

〈見処〉
①この男が、世界を変えてしまった——
・『オッペンハイマー』は、2023年に製作された伝記映画。監督は『ダークナイト』『TENET テネット』などの手掛けてきた「(本作まで)無冠の帝王(だった)」クリストファー・ノーラン。
・本作は2006年ピュリッツァー賞を受賞したカイ・バードとマーティン・J・シャーウィンによるノンフィクション「『原爆の父』と呼ばれた男の栄光と悲劇」を下敷きにノーラン自身が脚色。第2次世界大戦下、世界の運命を握った天才科学者オッペンハイマーの栄光と没落の生涯を、実話に基づき描く。
・本作のストーリーは、オッペンハイマーが政府公職から追われに至る1954年聴聞会の「カラー映像」と、オッペンハイマーと確執があるアメリカ原子力委員ストローズに対し1958年に上院で行われた公聴会の「モノクロ映像」の2つの公聴会とオッペンハイマーの生涯の時系列が交錯する形で展開されていく。
・出演は、オッペンハイマー役はノーラン作品常連の俳優キリアン・マーフィ。妻キティをエミリー・ブラント、原子力委員会議長のルイス・ストロースをロバート・ダウニー・Jr.が演じたほか、マット・デイモン、ラミ・マレック、フローレンス・ピュー、ケネス・ブラナー、ケイシー・アフレックら豪華キャストが共演。
・撮影は「インターステラー」以降のノーラン作品を手がけているホイテ・バン・ホイテマ、音楽は「TENET テネット」のルドウィグ・ゴランソン。
・第96回アカデミー賞では同年度最多となる13部門にノミネートされ、作品賞、監督賞、主演男優賞(キリアン・マーフィ)、助演男優賞(ロバート・ダウニー・Jr.)、編集賞、撮影賞、作曲賞の7部門で受賞を果たした。

②唯一の被爆国をどう描くか?
・本作は、原爆の開発はナチスドイツやソ連との国際競争を背景として描かれているが、「唯一の被爆国」日本に原子爆弾投下することに至った流れは会話劇のなかで描かれ、直接的な被爆地描写が無いことや核被害の惨状が描かれていないとの指摘が一部で発生。
・映画監督のスパイク・リーは本作を「偉大な作品としたした上で「あと数分追加して日本人に何が起こったのかを見せてほしかったかな。彼らは蒸発してしまったんだ。その後、何年も放射能障害に苦しんだ。ノーランならそれができるはず」と日本に投下された2つの核爆弾を投下したことにより起こったことを描いてほしかったことをコメントしている。
・この事について、ノーランは「本作品はオッペンハイマーの視点から描かれたものであり、彼は他の人達と同じようにラジオを通じて日本の2都市に原爆が落とされたことを初めて知った。決して主人公を美化するためではない」と反論している。
・なお、本作は、本国アメリカでは人類最初の核実験「トリニティ実験」から78年後にあたる2023年7月16日から5日後の同月21日に公開されているが、世界的なヒット作品、かつ日本でも人気のあるノーランの作品が数ヶ月の期間において、公開未定となっていたのは、夏期公開は、広島・長崎への原子爆弾や終戦の日と重複を避け、対日感情を考慮したとの指摘もあった。

③結び…本作の見処は?
登場人物50名以上!?「予習してからの鑑賞」or「複数回鑑賞」をオススメします。
◎: 原子力の開発を「アメリカへの愛国心」や「戦争終結に向けた平和的手段」という側面を持ちつつも、主人公オッペンハイマーを「英雄」⇔「罪人」の一方に偏らないバランスで描かれている。「戦争美化」とも「反戦映画」とも一概に云えない、世界状勢が混沌とした現在ならではの実話映画の傑作。
◎: 陰鬱になりがちな史実を時系列を巧みに紡がれる演出にて、高い集中力を以て鑑賞出来る作品に仕上がっている。過去のクリストファー・ノーラン作品によって「時系列の捻れ演出」に耐性のついている現代の鑑賞者には違和感は感じない。
○: WW2の最中にあってもナチスドイツに代表されりファシズムよりも共産主義に対する脅威を描いていることに歴史的探究心を感じさせる作品であった。でも、ホントだろうか?
▲: キャスティングによって、作中のストーリーが垣間見れてしまうのが残念。ストーリー展開を担う重要な配役こそ、カイザーソゼのように新鋭俳優を登用してほしい。
▲: 2つの聴聞会/公聴会を通じて、オッペンハイマーとストローズの2人が立ち位置を対比している本作であるが、『ゴッドファーザーPART2』で描かれた家族の結束と離散のような対比的なものではなく、ロバート・ダウニー・Jr.扮するアメリカ原子力委員ストローズの物語は、一介の政治サスペンスに過ぎない。「反戦(反テクノロジー)映画」として、描くべきテーマであったかは微妙。

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遅れ馳せながら、本年最初の映画鑑賞となりましたが、本作にて「映画に対する興味・愛情」を戻してくれたような気がします。
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