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海の沈黙のHKのレビュー・感想・評価

海の沈黙(1947年製作の映画)
4.3
ジャン・ピエール・メルヴィル監督30歳のときの長編デビュー作。
日本では公開後60年近く経って2008年に初公開されたそうです。
これが予想外の面白さでした。
モノクロ・スタンダード。撮影のアンリ・ドカエ(当時32歳)も本作で撮影監督デビュー。
低予算の為、監督・製作・脚本はメルヴィルひとりで、撮影・編集・ダビング等はドカエとの共同作業だそうです。

この原作は1942年ナチス・ドイツ占領下のパリで秘密裏に出版された本で、フランス市民のドイツ占領軍に対する抵抗文学の象徴だとか。
ドイツ軍の命令で、ある老人と姪の2人が暮らす一軒家に1人のドイツ軍将校が同居することになります。しかし不本意な敵との同居に老人と姪はドイツ将校と一切目を合わさず口もきかず沈黙で対抗します。

絵に描いたようなドイツ人の顔つきのドイツ将校と沈黙を続ける老人と姪。
時計の振り子の音が静寂と緊張感を強調し、もうどうなるのかと事の成り行きを息をひそめて見入ってしまいます。
主要登場人物はほぼ3人ですが、この3人がとてもイイ。

私はメルヴィル監督作、とりわけ『仁義』『サムライ』などのフィルム・ノワールが昔から大好きでしたが、最近になって初めて本作や『モラン神父』などを観ると、私はこれまでメルヴィル作品のほんの一面しか観ていなかったのだと思い知らされました。

当初はフィルム・ノワールばかり好んで観ているつもりでしたが、もともとハッキリした定義も無いため、必ずしも暗黒街やギャングが出てこないこれらのメルヴィル作品も全て広義のフィルム・ノワールと言っていいのかもしれません。

本作は難産ながらも公開されるや当時の著名人たちに絶賛され、ジャン・コクトーは誰にも映画化を認めなかった『恐るべき子供たち』の監督をメルヴィルにまかせます。
これまで見る術の無かった『恐るべき~』も4Kレストア版でなんと現在限定公開中。
アンリ・ドカエのシャープなモノクロ映像の予告編を観ただけでもうすぐにも観たいんですが、こちらの劇場まで下りて来るのは来年くらいか、そもそも本当に観れるのか、ちょっと不安。
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