ぎー

グランド・ブダペスト・ホテルのぎーのレビュー・感想・評価

3.5
「ロビー・ボーイは、情報をもらしてはいけないんだ。石の壁になるんだ。わかった?」
ウェス・アンダーソン特集1作品目!
作品の著者が本の物語を語る体裁を取っているけど、そのまんま絵本のような物語が現実世界に飛び出したような世界観で、映像や衣装なども含めて、とっても可愛らしくって個性的で魅力的な映画だった。
そして、映画を見る前に思っていた以上にコメディ映画だった!
下品な笑いは一切なく、爆笑を掻っ攫うような感じでは無かったけど、終始笑顔で見ていられる、ポップな映画。
でもただただ明るく楽しいだけじゃなくって、ストーリーの核となる事件も起こるし、アクションシーンも織り込まれている。
むしろ首が切られたり、指がちぎれたり、なかなかな描写だったけど、この世界観とポップな演出でサラッと流れていった。
でもそれらがスパイスとなって、全く単調さとか感じる事なく楽しむ事ができた!
個性的な世界観で紡がれる、魅力的な新しいタイプのコメディ映画だった!

冒頭の名言を言ったのは主人公の1人、かつてはベルボーイで今はホテルのオーナーになっているゼロ。
そんな彼がこの物語を著者に語り始めるのだから、この映画は本当にふざけ切っている。

1番印象に残っているのは、映画の中でゼロの師匠となるグスタヴ氏が初めて登場し、ホテルを切り盛りしている場面。
完璧主義のグスタヴ氏のキャラクター設定も最高だし、そんな彼と素朴な少年ゼロのコンビはクセになる。
完璧主義に基づいてホテルの課題を解決していくスピード感も爽快だし、中高年の太客と関係を持っている描写はふざけ過ぎていて最高だった。
特に後で重要な登場人物と分かるマダムDとの軽薄なやり取りは完璧だった!
マダムDの死を受けて彼女の元へ向かう途中検問に引っかかり、ホテルの馴染みの客のおかげで難局を乗り越えたので、感動系の映画になっていくのかと思いきや、全くそんな事はなかった。
グスタヴは最後馴染みの客がいない場面でも検問に引っかかって、命を落としてしまうのだから。

最高に気に入ったおふざけポイントは三つ!
この映画はマダムDの遺産争いがテーマなんだけど、まず第一にグスタヴと対立するマダムDの長男ドミトリーの行動がふざけ過ぎている。
遺産争いだったら用意周到に根回しをして、狙いだったり黒幕だったりを分からなくして進めようとするのが普通だと思う。
ドミトリーは全然違う。
そもそもマダムDを毒殺しちゃうし、嘘の証言をさせた執事セルジュ、さらにはその姉、また遺産の管理を担当した弁護士コヴァックス全員殺しちゃう。
正確には殺し屋ジョプリングに殺させちゃう。
そして、その事を隠そうともしない。
滅茶悪いことやってるのに、あまりにも大胆不敵で、何だか爽快感があった。

第二に、グスタヴはマダムD殺人犯として逮捕されて脱獄するんだけど、脱獄の仕方がグダグダでガサツで、なのに脱獄できちゃう。
排水のシステムを使うとか作戦会議してたからこのシーンぐらいは真面目にやるのかと思いきや、結局動線上で賭けをしている看守に鉢合わせて皆殺しにしたり、看守の寝室がルートに含まれていたりと、本当にテキトー。
爆笑だった!

そして何よりも、第三にストーリーの締め方が滅茶雑!
新しい遺言書が見つかるや否や、いつの間にか遺産相続争いは解決してハッピーエンドになっちゃう。
さらにテキトーなことに、いつの間にか敵のドミトリーはトンズラしちゃうし、グスタヴは銃殺刑になっちゃったみたいだし、ゼロの愛する妻と子供も病で死んじゃったらしい。
衝撃的なことに、その全てが伝聞で語られ、映画では描写されない。
まさにこの映画らしく、どうでも良い部分が丁寧に描写され、ストーリー進行に関わる重要なポイントはあっさり片付けられる。

本当に良い意味でテキトーで軽薄な映画!
重厚で感動的な映画が好きな人には向かないかもしれないけど、ちょっと疲れている時にテキトーに見て笑うためには最高の映画だと思う!

◆備忘ストーリー
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/グランド・ブダペスト・ホテル
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