滝和也

鑑定士と顔のない依頼人の滝和也のネタバレレビュー・内容・結末

鑑定士と顔のない依頼人(2013年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

トルナトーレの
叙情的な映像美と
彼の作品である故に…

贋作の中にも真実がある。

その意味する所に…。

「鑑定士と顔のない依頼人」

胸糞悪い(笑)結果は予想通りであるにも関わらず、何故にこれ程、心を動かされるのか。

そう結論は見えているのに…。そんな話がある訳ないと思うのに。

1つには余りにも優雅で繊細なストーリーと舞台設定。そして美しい映像美。美し過ぎる依頼人。それ自体がフェイクであるのは想像の範囲であり、伏線も疑えば出てくるが…、それまでの作品の優しさが刷り込まれて行く故に、ギャップが生まれているだろう。

2つにはそうあって欲しいと言う、希望、願望が主人公並みに観衆に上記から植え付けられていくこと。特に老いを感じる人間には辛い。主人公と同じく、いや清廉すぎ、人を恐れたことがある人間には辛い…。

そしてトルナトーレが監督であると言うフェイクにも似た事実。誰もが知るあの作品の真逆を行く故に。彼も単なる楽観主義者でなく、人の二面性を知る、探求者である事を知る…。

フェイクの中に果たして真実はあるか、もしあるとすれば、主人公の彼女への好意、愛は本物だろう。愛を知らぬ男が自らの心に愛があったことを知ったのだから…。成就せずとも愛は愛なのだから。そして残る一縷の希望。パンドラの箱の中に残ったモノ。これが良いのか、悪いのか…それは主人公しか知らない。

ジェフリー・ラッシュの演技力は言うまでもなく、真実の愛を知らぬ悲しい老人を見事演じている。ジム・スタージェスの好青年ぶりも役柄にフィットしていた。また実は黒幕なんだろうと思われるポジションにいるドナルド・サザーランドはそのまんまでありながらも、目線を外す演技が巧み。だが全てのキーは彼女、シルヴィア・フークス。圧倒的な高貴さ、繊細さ、そして美しさ。彼女の存在なくしてこの作品は立ち行かない。

感情が揺さぶられるのが良い作品であるならば、これは素晴らしいはず。

とは言え理屈を付けても、
胸糞悪いことには
変わりはないのだが…。

今見るべき作品ではなかったと言う事だ…。
滝和也

滝和也