しんしん

アクト・オブ・キリングのしんしんのレビュー・感想・評価

アクト・オブ・キリング(2012年製作の映画)
4.1
ジョシュアオッペンハイマー監督作

1965年にインドネシアで起きたスハルト政権のクーデターによる歴史的な虐殺事件の加害者による「チープな再現ドラマ」を作る過程をフィルムに収めたドキュメンタリー。この事件が特殊なのは虐殺をした人たちは軍隊ではなく、軍隊に指示された民間人であったことだ。

この映画の上映当時、インドネシアではこのクーデターを起こした軍や党が政治的な権力を握っており、この虐殺は良き事として扱われていた。そして、その加害者は虐殺によりお金を貰い皆リッチになっている。そして、彼らは英雄として扱われ、殺した人間の数を誇らしげに語る。つまり国がらみで加害者が反省をしていないのだ。

もちろん地域差はありますが、国単位でこのような情勢になっているのが驚きでした。まさにホロコースト後にナチスがのさばっているわけです。そしてこの虐殺された被害者の数の多さ。数十万人から数百万人と言われており、正に歴史的な大虐殺事件だったのです。

この作品の中で現れる、差別と虐殺と歴史への欺瞞、政治、報道の腐敗というのはまさに過去どこの国でも行われた事であり現在どこの国でも起こっている、普遍的であり現在進行形でもある社会問題であるのだろう。

そしてラスト唯一、オッペンハイマー監督の存在が現れるシーン。主役である一人の老人が自分のしてきた事に目を向けてしまう。その後の彼の姿は壮絶である。

彼らに共感は全くできない。残念ながら彼らに救いがあるとも思えない。ただ、彼らは悪人ではなくただのちっぽけな人間なのだ。ナチスのSSだった人たちもそう、ただその時制と無思想性がちっぽけな人間を大量虐殺者に仕立てた。

監督は公平な事実だけを撮影し、彼自身の意見や演出はしていない。監督は彼らに反省させることの難しさと、理解させてしまった時の本人の心の計り知れない負担を知っていたのだろう。

加害者である彼の今後の人生はまさに地獄だろう。きっと私なら耐えられない。ただあの彼の背中には、僅かな光明、蜘蛛の糸の救いが見えた気がした。

本当に素晴らしいドキュメンタリー作品でした。次は続編である「ルック・オブ・サイレンス」を見ようと思います。