朱音

ウェア 破滅の朱音のネタバレレビュー・内容・結末

ウェア 破滅(2013年製作の映画)
2.6

このレビューはネタバレを含みます

モンスター・ホラーの古典中の古典「狼男伝説」を現代風にアレンジした本作。
狼男にまつわる設定を一新し、人間が狼に変身するのではなく遺伝性の珍しい病気で、その諸症状が「伝説の狼男」の特徴に近似しているというのは解釈として新鮮味があって興味深い。
その設定を基に物語を展開してゆくにあたってのアプローチも今までにないもので、前半部では獣の様な何者かに一家が襲われ惨殺されるという事件の、唯一の生存者である母親の証言を基に容疑者として逮捕された異様な風貌の大男タランと、人道派の弁護士キャサリンによる、冤罪事件を巡る法廷ものを彷彿させるストーリーになっている。

…とここまではいいが、この映画で描かれている物語は大味で杜撰な面が目立ち、展開や登場人物たちの行動は不自然で無理のあるものが多い。おかげでかなり変なドラマになってしまったようだ。
先ず、狼男の設定をせっかく現実味のあるものにした割に、科学的な考証が全然詰められていないのは残念だ。月の満ち欠けが病原体に作用するというのは、古典に準えたロマンと思えばまだ納得出来るが、遺伝性の病気なのに噛みつかれた人が感染するってそれウィルスなの?
タランが特殊な病気であり、犯行が不可能であったことを証明する為に行われた検査で、光による刺激で敏感になったり興奮したりするのは狂犬病などを彷彿とさせて面白いが、これをきっかけにタランが怪物化して大暴れする展開は些か性急過ぎる。
タランの住む土地をめぐる利権問題や、警察の不正、事故死と思われていた彼の父親が、実は警察によって殺害されていた可能性など、散りばめられていたミステリー的要素が収束する前に強引な力技で全部吹き飛ばしてしまわれたようで、それまで描かれていた物語への関心は急速に薄れてしまった。
主人公であるキャサリンはやる事成すこと全てが裏目に出て、彼女が動けば被害は拡大し、人死にが出るという状態になっており、その考えなしで慎重さに欠ける言動の数々には観客としていちいち苛立ちを禁じ得ない。非常に感情移入し辛いキャラクターになってしまっているのだ。それ故、感染した元恋人のギャビンが一線を越えずに踏みとどまったという、本作のテーマとも密接に関わってくるその行動に説得力を欠いているように感じられた。
ギャビンと言えば、彼は何故怪物化する直前に全身の毛を剃ったのだろう?タランとの闇夜の肉弾戦に備えて見た目が被らないようにしたのかな。そういう意味では確かに明確に区別がついて効果的だったよ。物語としての意味や心情はまったく分からないけれど。
仮に獣化する事に対する人間としての最後の抵抗というか、拒絶心がそうさせたのだとしても、彼はその直前にタランの母親をその力でもって殴殺しているわけで、順序が逆というか、何だかなぁというシーンに思えた。痛々しいインパクトがあっただけに尚更。

キャサリンのチームのもうひとりのメンバーであるエリックは、演じたヴィク・サヘイのフェロモン溢れる濃い顔立ちや、元恋人に対する未練を滲ませるギャビンに対し初めから好戦的な態度であったりと、個人的には最もキャラクターが印象的だと感じていたのだが、何か盛大にやらかしてくれそうな雰囲気だけを残してあっさり死んでしまったのは残念だ。

そして本作に登場する警察や機動隊の描写は酷く雑である。もう少し慎重に対策を練ってから戦おうよ。タランが森に潜伏したという情報を基に、蠢く気配に向かって一斉射撃する場面のマヌケさは失笑もので、こういった考証に欠ける描写が本作の信憑性や説得力を著しく低下させているのは言うまでもない。

本作の映像表現に関して、家庭用ハンディカメラや監視カメラ、およびニュースカメラなどによるマテリアル的映像を駆使したPOV風の演出が全編に渡って随所に用いられているが、それが演出上の効果を齎しているとは言い難く、またPOV風を装いつつも、一連のシークエンスの中にもその主観から外れた第三者視点が普通に挿入されるなど一貫性がないため、却ってドキュメンタリックな印象からは遠ざかっているように思える。
どちらかと言えば低予算で再現出来る美術背景などを極力チープに見せないための苦慮ではなかろうか。

本作の非常に良かった点は、狼男タランを演じたブライアン・スコット・オコナ―の見事な体躯と、いかにもなクリーチャー的に誇張するような表現を排したリアリティを感じさせるメイキャップは素晴らしかった。
彼の凶暴性を伝えるための徹底した容赦ないゴア表現によって緊張感を高める効果を齎している。

ツッコミどころや問題点は多いがいちおうストーリーはまとまっているし、それなりに楽しめる作品ではあった。
タランとの戦いを終えたギャビンは獣化の症状も抑えられ、人間として社会の中で生活しているようだ。
人間性とは何なのか、愛や信頼を棄て、その一線を越えてしまったとき、彼が最後に言うように「狼男」となる。というラストは少しだけ感慨深いものがある。
朱音

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