backpacker

ROOM237のbackpackerのレビュー・感想・評価

ROOM237(2012年製作の映画)
3.0
スタンリー・キューブリック監督。
言わずと知れた20世紀の大監督。
『博士の異常な愛情』『時計仕掛けのオレンジ』『2001年宇宙の旅』等、映画史に名を残す傑作を数多く作り、その影響は計り知れません。

本作は、そんな偉大なるキューブリック作品の一つ、スティーヴン・キング原作のホラー映画の金字塔『シャイニング』についての考察の映画化という、極めて異色のドキュメンタリー映画です。

『シャイニング』は、キューブリックによる大幅な原作改変がなされております。
とりわけ、ダニー少年とハロラン老がもつ特別な力"The shining"への言及がおざなりなものとなっていたり、結末の違いが気に障っていた原作者のスティーヴン・キングは、『シャイニング』の評価が高まれば高まるほど、原作小説の存在が霞んでじったこともあり、徐々に猛バッシングへと突き進みます。
遂には、バッシングをしないことを条件に、キングの製作総指揮によるテレビドラマ版まで製作されました(こちらはキングの原作に沿った内容)。

とは言え、『シャイニング』はホラー映画の傑作としての評価を確立し、その映像美と謎めいて不可解な恐ろしさに溢れる映画世界は、映画史に燦然と輝くホラー映画の古典として愛されることに。
そんな『シャイニング』を、細かく細かく、克明に研究・分析・推察した有識者たちの、努力の結晶が本作『ROOM237』なのです。


まぁ、内容は、
①無理矢理なこじつけっぽい要素(例:「237という数字はアポロ月面着陸の映像をキューブリックが制作したから」「本編を逆回しにして通常再生と同時に映すと新しい発見がある」「性的なサブリミナルの存在」等)と、
②なるほど一理あるなという要素(例:「主人公一家の乗る車が赤から黄のフォルクスワーゲンに変更されている。これは、映画の終盤でハロランがホテルに向かう途中、事故に遭って潰れている赤のフォルクスワーゲンを見ることで、『これは俺の映画だ。原作などしるか』というキューブリックからのメッセージ」等)
の二つがあるので、眉唾物として話半分に聞くのが良いのかもしれません。

それでも、正直奇怪で荒唐無稽な、所謂陰謀論くさいドキュメンタリーだとわかっているのに、何故か不思議と惹きつける魅力があるのもまた事実です。
それは、大きくは『シャイニング』という映画の魅力が作用しているものに他ならないわけですが、この映画で熱弁をふるう研究者たち(声のみの出演のため容姿は不明)は、まさにこの『シャイニング』の輝かしい魅力の虜になってしまった人たちなんだと思うと、なんだか無性に愛らしく見えるからではないでしょうか。

一つの映画に取り憑かれたようにしがみつく、それもまた映画好きの形。
結局本作の有識者たちもまた、映画という沼にハマった、同じ穴の狢。
キューブリックの『シャイニング』が持つ恐ろしいまでの引力に誘われた人たち。
もしかしたら、それは鏡に写った自分なのかも……?

『シャイニング』が放つ魔性の色香が、ドキュメンタリー映画にまでなることの凄まじさも感じつつ、不思議と引き寄せられる魅力的な考察の数々を、是非ご堪能ください。
backpacker

backpacker