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チョコレートドーナツのNMのレビュー・感想・評価

チョコレートドーナツ(2012年製作の映画)
4.3
原題『Any Day Now』(意:いつでも いますぐにでも)。
これは歌詞の一部で、いつの日かこの苦しみから解放される日が必ず来る、と続く。

終始悲しくて涙を誘う。休まる暇がない。涙活にも最適。
両想いというハッピー要素だけは一つあったはずなのに、それが隠れてしまうほど全体的に切ない。

70年代。あるゲイカップルが障害児を育てたという実話を元にした話。
今よりも様々な偏見に溢れていた時代。

ある夜運命で惹かれあった二人の男。
ただ、主人公のルディはパブのパフォーマー、そして相手のポールは検察官。
そのことがバレたらポールはクビ必須。

麻薬常習者で育児放棄気味の母を持つ孤独なダウン症の男の子、マルコと出会う。
ある日その母親は麻薬所持で逮捕。
やってきた家庭局の職員はいかにも事務的で冷たい印象。
施設に送られようとするマルコを二人は守ってやりたいと感じる。

ルディは、マルコを初めて見た時から分かるように非常に心優しく愛情豊かで、かつとても正義感の強い性格。またマルコになかなかドーナツを与えないところは既に母のような愛情で、マルコのことを本当に考えている。

ポールも、正義を貫きたいという理想を抱いて10年かけてこの職を得た気骨のある人間で、自分に非があると思えばみんなの前でも素直に謝る強さと純粋さがある。

二人のマルコへの思いは日に日に強くなり、大事な仕事さえも後回し。

しかし理解者はごくわずか。
周囲の人は偏見が強く、嫌悪感から嫌がらせのごとく執拗に二人からマルコを奪おうとする……。

マルコ役・レイヴァの演技が素晴らしい。何とも言えず寂しそうな表情、目を見てにっこりと笑うその顔。泣かれた日にはたまらない。観客はすぐ彼のとりこになるだろう。ゆえに二人がこの子のために奔走するのにも納得できる。

カップルは二人とも抑えた深みのある演技で、ゲイであることなど問題ではないと思わせてくれる。

そして後半の、ルディの歌唱。
はじめ『Come to me』をショーで歌う時は女性の声に口パクで合わせそれはポールに向けて歌われるが、後半ルディ自身の声で歌う時はマルコに対する親としての愛情もこもっている。

作品内においてルディの歌は単なる作品のスパイスというに留まらず、ルディ自身やマルコに対する思いなどが凝縮して強く心に響く。歌詞はしっかり聞いておかないといけない。
『I shall be released』ラストで、今すぐにでも、という思いをぶつけ、それでも未来を歌うルディが圧巻。

はじめはドーナツしか食べなかったマルコも後半には色々なものを食べるようになっており、音楽が好きな元気で明るい面を見せるようになった。

「見えない毛布」(作品中の歌)が確実にマルコを癒したと信じたい。誰も毛布を引き剥がしてはならない。

このような悲劇を減らすためにも、不要な偏見や、様々な法のハードルを下げるべきだと学ばせてくれた。

もっとオープンに、本当の親がどうしても無理なら他のできる人がよその子どもを預り育てるという選択肢があって良い。同性愛者でも何でも関係なく。世界中のマルコために。
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