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「エロ事師たち」より 人類学入門のRのレビュー・感想・評価

4.5
なんだこのわけのわからんタイトルは、と気になってはいたものの見ていなかった本作、ついに見てみた! まず、タイトルについてひと言、エロ事師って何て読むんやろーと思ってたのですが、「エロゴトシ」と読むのが正しいそう。もともとは「色事師」ということばがあって、男女間の情事を演じる俳優、または、男女間の情事に精通した人物を表すそうです。なるほど、てことは、このタイトルは、エロに精通した人、そして彼らを通して人類学の入門みたいなものを描いた作品ということだな、という前提で見始めたら、なんと、まぁ、たしかにそんな感じの作品だった。主人公は、大阪に住むスブやんという名のいかがわしい男。冒頭、ビジネス仲間たちと山を登って、何してはんねやろと見ていると、8ミリカメラでポルノを撮影しているらしい。それを仲間と編集して、哀れな男たちに供給しているのだ。彼が手がけているのはポルノだけでなく、エロ写真の作成・販売、ややこしい注文の男たちへの売春婦の手配、などなど幅広く、世の男性たちへの慈善家との自負を抱いている。そんなスブやんには内縁の妻的存在の人物がおり、理容室の女主人をしている春さんです。はっきりと申し上げまして、ブ男&ブーのカップルでありまして、記憶が確かならば、ふたりはセックスをしておりました。ただし、本作においては、セックスが直接描かれることはなく、あったとしてもとても断片的。ほぼ何も見えない。エロを求めて見る作品ではありませんのでご注意を。春は夫に先立たれた未亡人であり、夫の死と同時に生まれいまは巨大に成長したフナを小さな水槽に飼っていて(フナにとってはとても窮屈そう)、これを夫の生まれ変わりと信じている。フナは彼女の行動をいつも見張っており、是認せぬときには飛び跳ねる。そう語りながらも、スブやんとの関係を是認せぬ風なフナを横目に眺めながら暮らしている。彼らの住んでいる狭い一軒家は表が理容室、裏には川が流れていて、フナはその川から来たものか。春には前夫とのふたりの子どもがいる。息子の幸一は、大学受験の浪人生だが、こんな狭くてうるさい家では勉強できない、友人とふたりで下宿するから金をくれ、と、その後、何度も何度も金をくれ金をくれとせびってくる男で、登場シーンではいきなり母・春の布団に潜り込んで、寒いからあっためてーな、と母にピタリとくっついている。フーム。母と息子がこの距離感って何とも言えぬ気持ち悪さですね、と思ってると、もっともっと気持ち悪いことが起こり始めるのです。今度は、春の娘の恵子。こちらもなかなかのブーちゃんで、15歳の中学生。最初はただの不貞腐れた根暗さんかと思いきや、途中から近所のごろつきどもとつるみ始め、どんどんナンパで生意気な感じの子になっていく。まぁでも、こんな環境で暮らしてたらロクな人生にならんから、ひねくれて当然でしょう。その子が、なんと! 母の愛人のスブやんと体の関係を持ち始め、同時にいろんな男とやりまくりだし……という衝撃的な展開に。15歳の中学生が気持ち悪い中年のおっさんとキスしてるシーンがあったり、タバコ吸ってたり、酒飲んでたり、現代の極めてルールに従順な若者の日本の水準からしたら、言語を絶するカオスっぷり。しかも、本作、じじいにちかいおっさんたちが若い女や処女に欲情してるシーンがちらほらあり。さらには、エロビを撮影するために知的障害のある娘をレイプするお父さんが出てきたりする。娘は障害が重度過ぎて、エロビをうまくとることができず、与えられたキャンデーをガリガリむさぼり食うだけだ。そのようなとんでもないシーンや状況が続出するのだが、だからといってまったく重苦しい雰囲気になることなく、軽快で面白おかしく、ポンポン話が進んでいくもんだから、引き込まれて見入ってしまう。本作のあっけらかんとした楽天的な雰囲気は、明らかに大阪弁のなまりからも来ていて、どんなにシリアスなシーンでも、なーんとなく陽気に響いてしまう。やっぱ言語の音調がそのスピーカーたちに及ぼす心理的影響は大きいんだろうなと思わざるを得ない。しっかし、幼児虐待や近親相姦がこんなにポップに描かれてる映画が日本にあろうとは、思いも寄らなかった。現代これくらいぶっ飛んだ映画ってあるんだろうか、あるならぜひ見てみたいものだが。とにかくこんな感じで男と女の哀れむべき恋愛と欲求と金銭事情の絡み合いが展開していく。今年社会人になったばかりの僕の大切な友人Dが、「昔はただ好きってだけで付き合っててその時が一番楽しかった。今は条件とか将来とか金銭とかいろんなものが絡んできて、もう純粋に好きってだけで恋愛はできんもんなんかな…」とぼやいていた、という話を聞いた。今のまま行くと、彼も本作に出てきた、どうしようもない劣情まみれのおっさんになってしまいそうな気がして、何とかしてあげたいな、と考えている昨今である。劇中、とある人物が、「女をじっと見てたら、皮の下にドロドロしたもんがいっぱい詰まってるみたいで、それ(と付き合っている)よりひとりでいた方がずっと……」と語っていたが、皮の下のドロドロしたものが、まさに彼の言っていた条件とか将来とか金銭のことなのかな、と思ったりした。いや、ただの性欲か笑 まーそれは置いといて、本作には声を上げて笑ってしまうシーンがたくさんあり、いちばん笑ったのが、特に深い意味ないんやけど、近所のチンピラにからまれたスブやんが、「畜生、クソガキども、どたまかち割ったるで、ほんまにぃぃぃ!!!」とキレているシーンのセリフ回しが素晴らしすぎ🤣🤣🤣👏👏👏 こんなにセリフ回しで笑ったの久しぶりや。ただ、ぞっとするシーンもいくつかあって、迷信深い春さんが気がふれておかしくなるとことかすごかったなーーーー!!! 演技の迫力がすごすぎて全身に戦慄が走ったわ! あと、カメラワークとか演出も鋭いキレの効いたシーンが随所に散りばめられており、向こうの方から息子幸一の女がカツカツ歩いてくるシーンとか、フナ関連のエフェクトとか、ぞくっときた。ほんでこの話、もうどないしようもなくなったスブやんが、これしかない!!!って行きつく結論が爆笑🤣 女からの解放、女の解放、もう、これしかない! 一体そこからどう決着つくねんって思ってたら、予想を超える不思議な広がりを持つエンドシーンに謎に感動しました笑 いやー、ちょっとなかなかお目にかかれない種類の面白さを持つカオスな映画だった! 是非また見たい!
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