タケオ

フランシス・ハのタケオのレビュー・感想・評価

フランシス・ハ(2012年製作の映画)
3.8
ノア•バームバック監督は、弱さを抱えた人間たちがその不器用さ故にドツボにはまっていく様をコメディとして描くのが本当に上手い。どん詰まり人間たちを辛辣ながらも温かく見守るような優しいタッチは、バームバック監督の作家性として長編デビュー作『君と僕のいた場所』(95年)から一貫されている。本作の主人公フランシス(グレタ•ガーウィグ)もまた、どうしようもないほど不器用でガサツな人物だ。人間関係はギクシャク、片付けができず部屋はぐちゃぐちゃ、ダンサーを目指しているものの、なかなか芽が出ないどころか事務職を勧められているほどのドン底状態。そんな彼女が、ヤケクソながらもガムシャラに現実とぶつかっていく様を、本作はどこまでもチャーミングかつパワフルに描き出していく。バームバック監督の作品がどん詰まり人間の散々な姿を描いているにも関わらずコメディとしてしっかりと成立するのは、彼が俳優陣の魅力を最大限引き出すことにも長けているからだ。とりわけ、本作のグレタ•ガーウィグはバームバック作品史上最も輝いているといっても過言ではない。派手な見せ場がある訳ではないが、彼女の一挙手一投足が実に魅力的で、本作の鑑賞後にはすっかり彼女の虜となってしまった。それもそのはず、グレタ•ガーウィグとバームバックはなんと私生活でもパートナー関係。ジャン=リュック・ゴダールとアンナ•カリーナのように、ウディ•アレンとダイアン•キートンのように、バームバックもガーウィグの魅力を頼りに本作を完成させたのだ。ちなみにバームバックは、『イカとクジラ』(05年)では自らの学生時代の体験を、『マリッジ•ストーリー』(19年)は、バームバックの前妻ジェニファー•ジェイソン•リーとの離婚を元に制作されている。バームバックは何故自らの事情を映画に落とし込むのか?それは、彼自身が最も不器用な人間であることを自覚しているからではないだろうか。
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