こうん

フランシス・ハのこうんのレビュー・感想・評価

フランシス・ハ(2012年製作の映画)
4.5
待ちに待った「ストーリー・オブ・マイライフ」を観てきて、心底感激したし、グレタ・ガーウィグさんのVer2.0だなと思い、そうすると「レディバード」はVer1.0で、さらにそうすると脚本と主演を務めた「フランシス・ハ」はVer0.5ってところでしょうか。
その「フランシス・ハ」の劇場公開時に書いた感想を読み返したらタイムマシンみたいで面白かったので、以下に転載します。
(2014年9月の文章なので恥ずかしいところもあるのです)

*   *   *   *   *

映画館で遭遇したチラシ、そのモノクロ×ピンクのアートワーク。
なんだかオサレな宣伝美術と珍妙なタイトルに興味をそそられ、予告編を見てみると、イヤハヤすげー好みな感じ。こういう控えめなオサレ感は嫌いではないし、音楽使いや初期のトリュフォーっぽい躍動感が良さげ~と思って。
それに監督が、底抜け家族の徘徊映画「イカとクジラ」のノア・バームバックで、知らなかったけどウェス・アンダーソンのシナリオライターなんですね。
こりゃあ期待できるのかもしれませんねーってな軽いノリでユーロスペースに観に行ってきましたよ。

☞「アホだなー」と思いつつもフランシスが好きになってきて…。
☞久し振りに切れ味のいい会心の終わり方に出会いましたぁー!

うーん、けっこう好きな映画でしたよ!
ちょっとだけポジティブな終わり方なんですけど、主人公フランシスと自分に共通するダメさを見つけて、なんだかシンミリといたしました。

オハナシはNY在住のダンサー志望の女がボンクラぶりを発揮しまくりドツボにはまって、右往左往しながらも若くもなければ年老いてもいない自分の居場所を見つめる、っていう実はけっこう内省的な物語です。

まぁとにかく主人公フランシス演じるグレタ・ガ―ウィグさんが抜群にいいんですな! 僕はこの女優さんを存じ上げなかったんですけど、本作のコメディ演技は素晴らしかったです。
先ずその体躯(身長173センチ・骨太な感じ)を活かしたキャラクターが良くって。
僕は、役者さんが演じる役柄についてその心情への理解が、表情や動きに表わせていれば素晴らしいと思っているんです。台詞や行動ではなく、顔つきや歩き方つまりアクションそのものでその人物がどんな人間なのかが判る、っていうね。
そういう意味でグレタさんのフランシスは100点満点。
それなりに愛嬌もあれば世間知もあり、人生に対する願望やそれに向かって邁進する努力もしている。
だけど哀しいかな、常に鈍重なんですよね。
(“ノシノシ歩き”と言われる歩き方とかダンスシーンも、重苦しいんですよね、運動神経が俊敏ではない感じがGOOD!)
なんというか、オハナシが進むにつれて、フランシスから先天的に“現実と仲良く出来ない質”というニュアンスが立ち上ってくるんです。
思い立ったが吉日猪突猛進型のポジティブなフランシスだけど落ち込んだり傷ついたりもするし、しかしすぐに奮起して立ち回るも、ズレっ放しの空回り。
どうにもこうにも間が悪く、うまくいかない。
僕の(数少ない)女友達にもこういうヤツがいますが、映画の中のフランシスが他人とは思えず、すごく愛おしくなっていました。
っていうか積極的に彼女の中に、自分を投影して観ていましたよ。
空気を読めずに周囲のヒンシュクを買ったりクレジットカードが期限切れだったり見栄っ張りの嘘をついたり家賃が…!という事態になったり…。
身に覚えがあります!(20代の頃ね)
僕にとってこの映画は、グレタさんのフランシスが動いているだけで面白い!他人事じゃない!という感じでした。

また、グレタさんは監督のノア・バームバックさん(実生活でもパートナーなんだとか)との共同脚本を務めているんですよね。
つまり彼女の女性としての実感がこの映画には詰まっているわけで。
「(500)日のサマー」や「ルビー・スパークス」や「セレステ∞ジェシー」のような“制作者の実人生を大いに反映させた青春映画”でもあるんですね。
なんでも最初は彼女が出演する予定はなかったとか。でもシナリオ書いた当人が演じることのメリットは大いにあったと思います。

それから青春映画の側面とは別に、“ダメ女がジタバタする”映画の系譜があると思います。
最近では「ヤング≒アダルト」とか「ゴーストワールド」(大好き)とか…特に「ゴーストワールド」の女親友コンビをアラサーにしてNYに持ってきた、というくらいに似通っています。語り口は全然違いますけど。
フランシスと親友ソフィの“セックスレスの老レズビアンカップル”のように仲良し、という雰囲気は、いつまでもキャッキャッと城麻美について語りたがる男子(おれ)にも充分伝わります。
そのキャッキャッが出来なくなり、一方が大人になって取り残され冷めていく過程…親兄弟のように愛している親友に、焦りや嫉妬を感じてしまう、あの複雑な気持ち。
実生活では切ないけれど、映画の中であれば大好物です。

本作の監督のノア・バームバックさん、前述のようにウェス・アンダーソンのシナリオライターなんですよね。アンダーソン・ファミリー。
僕はW・アンダーソン作品の良い観客じゃないので(「グランド・ブタペスト・ホテル」は面白かったですよ)シナリオライターとしてのノア・バームバッグさんについてはよくわからないのですけれど、「イカとクジラ」と本作を観て、不親切なくらいに断片的なシークエンスを並列に展開していく散文的な語りで、物語とパッションを詰めていくタイプの作家だなと思いました。
そして、ペシミスティックな本心をユーモアと人間大好き感でコーティングしている。
独特な語りを持った映画作家ダナーと思いましたですよ。

ゴダール「はなればなれに」やトリュフォー「ピアニストを撃て」のような初期ヌーヴェルバーグの自由度や70年代ウディ・アレン作品のような寂しさやスノッブさ、また80年代カラックスのような疾走感とモダンさを兼ね備えているんじゃないですかね。

僕はどこかジャン・ユスターシュ作品を陽性に裏返した印象を受けました。
「ママと娼婦」のように、出てくるやつらがみんなどこか愚かである、というドライな眼差しがあったように思いますよ。しかし、ユスターシュほど突き放してはおらず、見つめる目は優しく、掬い取るその手の動きはユーモラスです。
調べたらベン・スティラー主演の商業映画も撮っているんですね。こちらも近いうちに観てみたいです。次回作もベン・スティラーやナオミ・ワッツやアマンダ・セイフリード出演映画みたいっすよ。
この乾いた悲哀溢れるコメディ映画作家に要注目です!

あと、先物買い気分で推しておきたい俳優さんが出てまして。
前半戦で姿を消してしまうけど、フランシスのルームメイトになるスノッブなあまりにもスノッブな高等遊民のアンちゃん役のアダム・ドライバー君。
本作ではイケてる趣味してる風の優男的な雰囲気ですけど、よく見ると190㎝以上の巨体でヘンな顔に低い声でなおかつとっちゃん坊や的な幼さも兼ね備えている、クセのある俳優さんです。今年はもう「インサイド・ルーウィン・デイヴィス」でも日本のスクリーンにお目見えしています。
なんともヌボッとした印象深い容貌をしていますですよ。
そしてなんとそのツラを買われて、JJ版スターウォーズの悪役に大抜擢。これから注目を浴びること間違いなしのクセモノ俳優ではないでしょうか?
余談ですがadam driverで検索していて見つけた、楽しげな画像をPCの壁紙にしていたのですけど、それが本作の1シーンだと知ってビックリしたものでした。

さてそれから気になる、タイトルの「ハ」ってなんだよ?ということですが、これは観てのお楽しみ(・-・*)ヌフフ♪
(これはネタバレしたら、台無しになるネタバレ)
終盤、七転八倒しながらフランシスの踏み出した小さな一歩に私たちは、共感を持って快哉をあげつつ、彼女の愛くるしい足らなさにズッコケるのです。

「方丈記」を愛読する35歳男の僕が面白かったのですから、アラサーの女子(いつまで女子って言い張るんだチミたちは)のみなさんにはツーンと胸に迫る、とっても素敵なトラジコメディなのではないかと思わないでもないですよ!

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「ストーリー・オブ・マイライフ」はもう1回観てから感想を書きたいと思いますですハイ。
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