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ウォーリアーのsymaxのネタバレレビュー・内容・結末

ウォーリアー(2011年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

…もういいんだ…トミー愛してる…

トミーが、14年ぶりにふらりと父パディの元に帰って来たところから物語は始まります。

父パディは、今は、アルコール依存症に真摯に取り組みアルコールを絶って、間もなく1000日目になろうかというところですが、以前はアルコールに溺れ、妻子に暴力を振い、たまりかねた妻とトミーは家を飛び出し、絶縁状態となっていました。

トミーは、とある理由から他に頼るあてがなく、父の元に帰ってきたのです。

一方、トミーの兄ブレンダンは、当時付き合っていた現在の妻テスとのこともあり、父の元に残ったのですが、テスと結婚後、同じく父とは絶縁状態で、高校の物理の教師をしていました。

そんな時、優勝賞金500万ドルという高額賞金の総合格闘技トーナメント大会「スパルタ」が開催される事になり、トミーは亡き戦友の家族の為、ブレンダンは娘の心臓の病気により家計が困窮したため、家を失う寸前まできていることから、経済的理由で「スパルタ」に参戦します。

父パディは、元優秀なレスリングのコーチであり、ブレンダンもトミーも優れた選手でした。

トミーは、父へのわだかまりを抱いてはいたものの、優秀なコーチである父の能力を頼り、父にトレーナーを頼みます。

ブレンダンは教師になる前は、総合格闘家として試合をし、怪我により引退していましたが、金を稼ぐ為に今一度、戦いのリングに立つ事を決断したのです。

三人三様の想いを抱いて、運命の戦いが始まります…

父パディ、長男ブレンダン、次男トミーは、三人が三人とも、"わだかまり"を胸に抱いていて、終始"怒っている"状態です。

ブレンダンとトミーは、アルコールにより家庭をボロボロにし、遂には、母が死んでしまった事に対して、父パディを絶対に許していません。

また、トミーは一緒に逃げて欲しかったのに残った兄へ、ブレンダンは、母の死を知らせなかった弟へ、それぞれ"怒り"を持ち続けています。

一方、パディは、アルコールに溺れた過去の自分に対して、"怒り"を持っています。

三人が三人共、心の整理がつかないままに「スパルタ」が始まるのです。

親子、兄弟の確執については、過去のフラッシュバック等の映像がある訳では無く、兄弟の徹底的に冷たい父への態度やそれとなく語られるセリフの中に垣間みられる程度で、物語上、丁寧な説明はされていません。

ですから、見る人によっては、説明不足と感じるところもあるかも知れませんが、見ている者の''誰かを傷つけた経験"、"誰かに傷つけられた経験"によって、三人の主人公の誰かの目線で物語を見届ける事で、また違った感想を持つ深い作品だと思います。

また、本作には、「ロッキー」のように、負け犬だった主人公がアメリカン・ドリームを掴むという側面もありますね。

それにしても、試合のシーンは圧巻の出来で、ここ数年、これ程凄いシーンを見た事がありません。

トミーは、一撃必殺のハードパンチャー、ブレンダンは老獪なサブミッションとタイプは違いますが、ガチでやってんじゃないかと感じる程迫力があります。

トミー演じるトム・ハーディもブレンダン演じるジョエル・エドガートンもマジな格闘家と思える程キッチリ身体を作っている上に、兄弟の微妙な心の機微も繊細に演じていて見応えがあります。

ジョエル・エドガートンって、私的には、「遊星からの物体X:ファーストコンタクト」のうっすい顔の人とのイメージしかありませんでした…ごめんなさい…

何より父パディを演じたニック・ノルティの素晴らしい演技…心根が弱く、どうしようもない親父なんだけど、息子達を心から愛していて、でも冷たく拒絶され、それが自分のせいである事を痛い程知ってる…そんな繊細な役をあのダミ声で演じていて、本当に切ないです。

ラストの兄弟対決は、一発一発、色々な感情がこもったパンチや蹴り、投げそして関節技…言葉ではなく、心と拳で会話をしているようです。

二人とも泣きそうな表情で、それこそ、命を削って身体で会話をしています。

何か、凄い泣けてきました…

映画を見て、鳥肌が立つ程の感動で身体が震えてきた感覚を本当に久しぶりに味わいました。

ブレンダンとトミーは、戦う事によって、お互いの"わだかまり"が溶け、お互いを許し合えたのでしょうか?

私は、許し合えたと信じたいです。

そして、兄弟二人の父への"わだかまり"も溶けたと思いたい…
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