タケオ

ゼロの未来のタケオのレビュー・感想・評価

ゼロの未来(2013年製作の映画)
3.8
「未来世紀ブラジル」「12モンキーズ」などを生み出したテリー•ギリアム監督の作品ということもあり、やはり本作も一筋縄ではいかない曲者作品だ。

巨大企業マンコム社に支配された世界。
自らを「我々」と呼び、他人との接触を避け生きてきた孤独なプログラマー コーエンは、かつて一度だけかかってきた「人生の意味を教えてくれる電話」が再びかかってくる日を待ちわびていた。

その電話のためにも在宅勤務を希望しているコーエンは、マンコム社の社長「マネジメント」に相談する。

在宅勤務を承諾した「マネジメント」は、コーエンに一つだけ条件を与える。
それは、「ゼロの定理」を解析することだった•••。

企業宣伝やポルノサイトの広告に満ち溢れ、禁止警告板やゴシック調の建築物が建ち並ぶ混沌とした世界観は見ごたえあり。
主人公の住んでいる廃教会のキリスト像の頭が監視カメラになっているあたりが実にギリアム監督らしい!

また、「イングロリアス•バスターズ」や「007 スペクター」などで不動の地位を築きつつある怪物俳優クリストフ•ヴァルツの、スキンヘッドと挙動不審気味で絶妙なキモさを表現した演技も素晴らしい!

そんなコミュ障プログラマーとひょんな事から関わる事となるコールガールのベインズリー、「マネジメント」の息子 ボブとの人間ドラマも魅力的だ。

唐突に巻き起こる、淡く切ない恋と心を動かす友情が、孤独という甘美に浸り続けたコーエンに少しずつ変化をもたらしていく様が何処か心地よく頰が緩む。

本作は決してハッピーエンドではないが、「未来世紀ブラジル」のような絶望的なラストではなく、何処か希望を感じさせる結末を迎える事となる。

人生に無理に意義を見出し、無駄に散っていく人々が溢れかえる世の中で、逆に心の奥にあるブラックホールのような虚無に身を任せるのも また幸せへの近道ではないのだろうか?

人生の意味をシニカルに見つめながらも嫌味なく鑑賞者に考えさせる、テリー•ギリアム監督の新境地を見た。
タケオ

タケオ