八木

ハミングバードの八木のレビュー・感想・評価

ハミングバード(2013年製作の映画)
4.8
突然ステイサム映画をお勧めする機会があったので、見直した。
ここのサイトで初めて、この作品が決して好評でないことを知りました。まあ暗いからなあ。もっと言えば、ステイサムが銃持って「復讐」の文字が見えてこの内容だったら実質の詐欺やんな。でも、ステイサムのありがたみは爆発してると思う。で、僕はこの作品ヘラヘラしながら感想書けないくらい好きです。見ると毎回、終盤カクテルパーティーから脱出するときに酒瓶をあおるステイサムを見て泣いてしまう。悲しい。この映画でスティーブン・ナイトという監督を知って、他作品も気になって観たりした。「人間ってやつはどうしようもない、だけど」というものを表現したい映画監督のような気がしています。
この映画では、戦争の現場で人に明かせない形で罪を犯した過去を持つステイサムと、やはり人に話せない過去を持つシスターがお互いの人生を取り戻そうとする過程で幻のように惹かれ合い…、というようなお話になってます。ステイサムのパブリックイメージである「人をぶん殴って女を抱く」という映像は確かに存在するのに、全く違う文脈で見せていることと、ステイサムの演技の引き出し方ががっちりとかみ合って、良いギャップになっています。
まあ、はっきりいって僕はもう冷静に見れていないんですけど、この映画でトラウマを抱えた元ソルジャーを演じてるステイサムはものすごくいいんです。この世の中にはきっと、トラウマソルジャーがうまい役者が存在すると思いますけど、ステイサムはその中でもすごくいいんです。俺はステイサムが見たい。いろんなステイサムを見たいぞ。
隣人に空き家を疑われたシーンで、唐突にステイサムが「俺はこの夏に人生を取り戻すんです」と返事する場面があります(次のシーンでは中華街でバイトする場面に)。また、バーベキューのシーンでも「炊き出しではなく人生を返してやれ」と怒鳴るステイサムがいます。人生を取り戻す、とは、いい人になることであったか、ギャング稼業で稼いだ金で元嫁が家主にフェラチオをする必要をなくすことであったか、盗まれたであろう500ポンドでバレエを観ることであったか、スーツを着たカッコイイ父親としての写真を娘に渡すことだったか、いろいろな問いかけを映画中に作り出して、ステイサムは最後、人生を取り戻す第一歩に辞めた酒を最後にもう一度飲みます。そして、自分の罪を告白します。
ハミングバードはきっと見ている。僕は、タイトルのハミングバードが単なる監視者でなくて、シスターが信じられなくなっていた神のことじゃないのかと思っています。あのラストは、罪を重ねて向き合ったのちに、「いい人」になるために必要な0歩目が始まるという、わずかに前向きなメッセージのような気がするのでした。どこからでも、最低なところからでも、人生は取り戻せる。あからさまでなく、わずかな救いが、僕にとってはちょうどよくて感動するのです。
八木

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