シズヲ

イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密のシズヲのレビュー・感想・評価

3.5
第二次世界大戦時にナチス・ドイツの暗号機エニグマを解読し、そしてその功績を闇に葬られた数学者アラン・チューリングの物語。彼が開発したチューリングマシンが現代のコンピュータの礎になるなど、電子計算機の開拓者としての貢献に唸らされる。そんな彼も同性愛者であるが故に告発され、また戦時中の偉業も長年に渡って秘匿され続けるなど、かつての不遇な立場が感じ取れる。

チューリングを演じるベネディクト・カンバーバッチの繊細さと神経質さを兼ね備えた好演は素晴らしい。時おり見せる“孤独”の表情が特に印象深く、チューリングの悲壮を際立たせている。彼の妻を演じるキーラ・ナイトレイも中々に印象的。撮影に関しても余り華やかに映さず、控えめなトーンの色彩が映画全体の上品さを構築していて良い。

ただ、映画としてはまぁ堅実で普通。確かに賞を取るだけの良い作品だと思うけど、そんなにフックは感じない。内容自体のトーンに加えて時系列をシャッフルしているのもあって、暗号解読のロジックやナチスとの駆け引きのスリル、戦時下の緊迫感などは余り掘り下げられていない。不仲だったチームメンバーがジョーンの計らいを経ていきなりチューリングを信頼する下り等もそうだけど、作中のドラマもそこまで強固に描かれてるようには感じられない。マイノリティとしての立ち位置に関しても“妻であるジョーンとの関係性”によって分かりやすく濁され、その苦悩の掘り下げはカンバーバッチの演技だけに集約されてる印象。全体的に良くも悪くも表層的で、あくまでチューリングの脚色された生涯をテンポ良く抜き出した作品として見るべきか。

とはいえ解読機に対する“クリストファー”という純愛を感じさせるネーミング、また「ナチスは愛によって敗北する」という台詞など、作劇的な“粋さ”は憎めない。「想像もしなかった人が、いつか想像もしなかった偉業を成し遂げる」という言葉の継承も分かりやすく感動的で味わい深い。カンバーバッチの好演や編集によるテンポの良さも相俟って、伝記映画としてエンタメ性を抑えながらもスムーズに見ていられるのは印象的。
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