るるびっち

チューリップ・フィーバー 肖像画に秘めた愛のるるびっちのレビュー・感想・評価

4.2
中々の拾い物だ。
まず美術力が凄い。
フェルメールの世界を再現している。
17世紀オランダの街の感じ、室内の陰影や空気感。
ラピスラズリを原料にしたウルトラマリンブルーの衣装の色など、正にフェルメール・ブルーの再現だ!!
ドア越しに部屋に佇む人物で、フェルメール絵画で観たような光景が映し出され陶然とする。

チューリップの投機熱に沸くオランダ。
チューリップ・バブルが人々に判断を狂わせ、無謀な行動を起こさせる。
主人公の女性と画家の禁断の恋の熱狂ぶりと、チューリップ・バブルの熱狂を掛け合わせている。
恋愛は脳が麻痺している状態だと言う。
生物学的に子孫を残すための遺伝子の戦略だ。
女性にとって出産は死の危険と隣り合わせなので、そんな危険な行為をさせるためには恋愛という仕掛けで脳を麻痺させる必要があるのだ。

恋と投機で熱狂した主人公たちは正常な判断を見失い、無謀な行いをする。
それは全てを失う結果をもたらす悲劇的なものだ。

またシェイクスピア的な取り換え劇があって、喜劇性と悲劇性が合わせ鏡のように展開する。この辺は『恋に落ちたシェイクスピア』の脚本家トム・ストッパードの面目躍如といったところだろう。
シェイクスピアが後年、悲劇と喜劇を掛け合わせたようにどちらの要素も取り入れている感じがする。

『ロミオとジュリエット』で神父が「激しい喜びには激しい破滅がともなう」と、若者の恋が刹那的であると批判している。二重のフィーバーに踊らされた二人の恋は、その浅薄さゆえに悲劇で幕を閉じた方がメッセージは痛烈だったろう。
後年のシェイクスピアのロマンス劇をなぞったのか、それとも悲劇的結末を嫌うハリウッド体質のせいか、最後の判断でドラマ性が薄くなった印象が否めない。名作になりそこねたきらいがある。
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