ま2だ

彼の見つめる先にのま2だのレビュー・感想・評価

彼の見つめる先に(2014年製作の映画)
4.6
彼の見つめる先に 観賞。

2014年のブラジル発青春ドラマ。この時期にこれほど軽やかにふたつのノーマライゼーションを達成してみせていることにまず驚かされる。2018年に観ることでその意義、そしてエヴァーグリーンなトーンとの両立に唸らされる傑作だと思う。

冒頭のプールサイドのシーンで表明されるようにこれはキスの物語だ。盲目の少年レオと、彼にいつも寄り添う幼馴染の少女ジョヴァンナ、転校生の少年ガブリエル。三者のひと夏のキスの行方が物語の軸となっている。

奇数での友情から芽生える恋愛においては誰かひとりが疎外されざるを得ない、という切なくも眩しいクラシカルな構図にのっとって、ボーイミーツガール、ガールミーツボーイ、ボーイミーツボーイが極めてナチュラルに描かれていく。盲目、幼馴染、同性という近い距離感をもたらす要素の使い方も上手い。

レオは盲目ゆえにいじめっ子にからかわれ、学校生活において孤独感を感じる反抗期の少年だが、障がいや性自認のもたらす生きにくさやコミュニティ内での対立や孤立(もちろん描かれないわけではない)よりも、彼をとりまく人々の愛情の深さによって、多様性というテーマがいつしか青春ドラマの中にごく自然に溶け込んでいく流れが素晴らしい。

幼馴染や転校生や家族はもちろん、クラスのいじめっ子たちまでもが、サイテーと女子に罵られながらもレオに構わずにはいられないような愛らしさを残したかたちで登場しており、この映画全編に横溢する親愛の感情は本作の大きな美徳だろう。演じる俳優陣もみな最高だ。

ベルセバ楽曲やダンスパーティー、夏休みのキャンプなど甘酸っぱ過ぎるシチュエーションを総動員して、宇多田ヒカルが「ともだち」で掬い取ったセンチメンタリズムとその先を描ききっている。成就した者もしなかった者も共に新しい一歩を踏み出すラストは、観る者に初恋の瑞々しさを思い出させるだろう。心洗われた。
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