カツマ

ローズの秘密の頁(ページ)のカツマのレビュー・感想・評価

3.9
波打ち際に宿る記憶。満潮と共に消える浅瀬のように、さざ波の合間を駆け抜けた一瞬の愛情。例え何かが壊れても、いつまでも錆びつかない最後のページがそこにはあった。悲しみに満ちた記憶は少しずつ紐解かれていき、引いた潮目に浮かんでくるのはあの人の声。それでも慟哭の海を泳ぎ切れたのは、愛する人が想い出の中に生きていたから。

ルーニー・マーラがその静的な美しさを遺憾なく発揮し、想い出の中の主人公を魅力的に演じている。アイルランドのアカデミー賞で美術賞を受賞したのも納得で、ルーニーの衣装は特に可憐に仕立てられており、劇中の男たちの視線を誘導するのも納得の立ち姿を披露してくれる。監督は『マイ・レフト・フット』のジム・シェリダン。幸福な時間の短さと儚さを瑞々しい筆致で描いた作品だ。

〜あらすじ〜

ロスコモンにある精神病院に50年入院し続けている老女ローズは、入所したての頃に自らの息子を殺した罪で告訴されていたが、彼女は『息子を殺していない』と言い続けてきた。
そんな彼女のもとに精神科医のグリーンが派遣されてくる。ローズのいる精神病院は取り壊しが決まっており、彼女を移送するかどうかを判断するためにグリーンはローズのもとを訪れた。
グリーンはローズが聖書の余白に記した日記をもとに彼女の過去を少しずつ掘り下げていくと、そこには次第に不可解な点が浮上してくる。果たして彼女は真実を語っているのか?
記憶は遡り、1930年代、若かりし頃のローズが叔母のいるアイルランドへとやってきたところから物語は再スタートする・・。

〜見どころと感想〜

ストーリー展開は読みやすく、意外性はかなり薄い。しかし、そこに至るまでのカメラワークの美しさや、ピアノを基調とした繊細な音楽の添付の仕方には、このドラマを見て感動させるだけの演出としてしっかり機能できていたと思う。
ルーニー・マーラの美しさは圧倒的だが、彼女の横に立っても違和感のないジャック・レイナーも魅力的に撮られており、対してそれ以外の1930年代の男たちは惨たらしいほど粘着質に描かれているあたりも十分に鮮烈だった。

美人が羨望を集めすぎた挙句に嫉妬の渦を巻き起こす、という展開もとても現実的で、モテる人も楽ではないという事実を1930年代という時代が拍車をかけて放っているかのよう。女性軽視とも取れる表現も多く、当時の現状をチクリと刺すような場面もあった。決して驚くほどの何かが待っているわけではないのだが、その結末へと真っ直ぐに向かっていく過程にこそ魅力を感じる作品でした。

〜あとがき〜

さほど評価は高くない作品のようですが、個人的には大好きなタイプの映画です。ドラマ作品に意外性はあまり必要ないかなと思っていて、カメラワークや音楽、俳優の演技によって、さほど突飛でもない物語にドラマチックを感じさせてくれるような映画がストライクゾーンに刺さりやすいようです。

ルーニーマーラ演じる主人公がやたらと男を惹きつけてしまうシーンを見ての余談です。昔はモテる人を羨ましいと思ったものですが、今となってはさほどモテない方が楽だなと思います。魅力を感じていない人に求愛され続けるのはちょっと大変そうですものね・・笑
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