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ベツレヘム 哀しみの凶弾のNMのネタバレレビュー・内容・結末

ベツレヘム 哀しみの凶弾(2013年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

世界各地の状況をわかりやすく学ぶのに映画は最適な手段の一つだと思っている。
この作品もここで生きる人々の複雑な状況が垣間見える。
主人公の少年は、テロリストの兄と、イスラエル諜報部の情報屋との間でやむを得ず二重スパイ状態になっている。この状況をなかなか抜け出すのが相当難しい。


ある日市の中心部でテログループのアルアクサによる自爆テロが起きた。
イスラエル諜報部エルサレム支部は捜査に躍起。

その諜報部に勤める男ラジは、パレスチナ人で17歳のイサウ(サンフール)を2年前から情報屋として引き入れている。
やや反抗的な性格の少年に根気強くイチから情報屋としての行動を教えてきた。
真の目的は、彼の兄イブラヒムがアルアクサの指導者なのでその情報を引き出すため。
イサウ少年は特に何も知らないとしか言わない。
ゲームが好きで仕事をよくサボり、友達と喧嘩をし、ラジを親のように信頼している。

実はイサウはアルアクサや兄とのつながりはある。
兄も大事だが諜報部も裏切れない。

イサウの父親にも色んな人物が近づく。生死ぐらいは知っているが誰が信用できるか分からないので情報は簡単に渡さない。
その頃イブラヒム自身は単独で潜伏中。

ある日ラジは、イサウ少年はずっと兄の手伝いをしているというタレコミを入手した。
裏切られていたことはショックだが、兄弟まとめて制裁を加えようとする組織に恩赦を願う。ラジもイサウを大事に思っていた。もちろんどんな理由があれど容赦するような組織ではない。
そもそもいつまでたっても兄の情報を持ってこないのにずっと面倒をみていたのは個人的に愛着があるからだろう。

ラジは、イブラヒムとイサウが接触する日時をつかみ張り込む。
道路が封鎖されイサウは現場には居合わせなかった。
銃撃戦の末、イブラヒムは銃殺された。

イサウがやっと病院に駆けつけると同志やら父親やマスコミらが集まり、殉教者を称え報復に燃えていた。
すると突然ハマスの数人が来て、英雄として称えるからと遺体を持ち出そうとした。
父は、息子はハマスではないと止め、仲間も駆けつけて遺体はなんとかとどまった。イブラヒムがハマスから資金提供を受けていたことは本人と弟イサウ以外知らない。

気は強いが高齢の父は、息子を失って肩を落とし家に引きこもってしまった。
ラジはイサウからの信頼を失い、二人は決裂。

イサウは兄貴のかたきを討つためにも直接的にアルアクサに入りたいと、二番手だったバダヴィに直訴。
バダヴィたちにはハマスとの繋がりはないので、まずはその橋渡しをすることに。
しかしバダヴィたちはイサウが諜報部の情報屋もしていたことを察し、イサウを捕らえ本当のことを言うまでリンチ。

暫くしてそこへ父親が連れてこられた。イサウを見るなり怒鳴る(実際に父が彼らに忠誠を誓っているわけではなく、バダヴィたちの手前叱りつけているのだろう)。

バダヴィはイサウが語った真相を父親に伝える。
実は2年前、父がイスラエル軍に捕まったとき、諜報部に協力しなければ父を終身刑にすると脅されて以来、選択の余地なく協力してきたのだった。
バダヴィは、ラジとイサウを会わせそこでやつを殺させようと計画。そうすれば裏切りを帳消しにしてやると。

イサウはラジに再び電話をかける。友達に怪我をさせその家族に殺されそうだから助けてくれと。
休日で動物園に来ていたラジだったがすぐに向かう。仲間から単独行動はやめろと連絡が入るが意地を張るように現場へ車を走らせた。
ラジが来た。
イサウは暴行され脅されている状態であるバダヴィのもとで働くことに納得しておらず、ラジにイスラエルへ行こうと話してみたが、詳しい彼の状況など想像していないラジは、俺が守るから今まで通りバダヴィから情報を引き出せとしか言なかった。ラジからすればそうしないとイサウは諜報部から狙われかねない。
もう頼れないと決心したイサウはラジに数弾を浴びせた。
一緒に逃げたかったのに。戻れとしか言ってくれなかった。
ラジの頭を抱きかかえ涙を流し、座り込んだ。


ラジはとてもいい人で諜報部であれどこであれこの国で生きていくのにかなり向かない人だったかもしれない。他の人とは全体的に違う性格。大事な弟子に撃たれた時ですら抗議もしない(拳銃で腹を一、二発撃たれた時点では少しぐらい喋れそうなもの)。
ラジは優しいが、かといってこの先もイサウを守れたかというと確証はない。
かといってイサウがバダヴィたちとつるめたとしても上手くやっていけるようには見えないし、いつまで彼の命はもつだろうか。
こんな政情でなければバイトしたり、恋をしたり、学校に通ったりと普通の人生があったかもしれないと想像してしまう。
政府もテロ集団も、理由をでっち上げては脅したりして本人や家族を手下に加えていくのだろう。イサウのように目をつけられ逃げられない状況になった人は少なくなさそうだ。イサウの父も兄も、ラジも人生を犠牲にしている。
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