八木

ヘイトフル・エイトの八木のレビュー・感想・評価

ヘイトフル・エイト(2015年製作の映画)
4.7
 長い映画は明確に嫌いですが、長いのに面白い映画はプラスアルファでいい映画なんだろうなあと思ってしまう人間です。この場合「面白い」と「いい」が重複しているのは僕の日本語が不自由なせいですね。
 とりあえず僕にとっては初めて見るタランティーノ映画であって、どの辺にタランティーノらしさがあるのかはよくわかりませんでしたが、ミステリーというには画面が動的だったり、うっかり人が死ぬ緊張感に満ちながらどこかコメディ的な空気が流れていたり、なんとなく「ジャンルで縛ろうとしてもにじみ出る作り手の好み」なんかが見えたような気がしました。この映画の中では、何回か頭を吹っ飛ばされるシーンがあるのですが、カットを分けて血を噴き出させるような、レトロでチープなホラー映画っぽい演出をしてるんですね。ほんで、そこに加えて大体脳みそを散らしている。実際頭を銃で打ったら向こう側に脳みそが散るのか知らんしまじで興味もないですが、これって多分ホラーや映画の様式美のようなものであって、その人が信じる「やるべきこと」でしかないのだと思うわけですよ。だからこう、全体的に多幸感があって楽しかった。
 ミステリーなんだから、途中の重要な展開については何も書くことができませんが、『死ぬのは置いといてそんなに血吐く?』っていう違和感って、こちら側の「死ぬぜ死ぬぜ…」という期待感に応えてくれる頼もしさだと思うのです。あと単純に血がいっぱい出ると面白いし。
 南北戦争後当初の一般的人種差別感というもんが、どのくらいリアルなのかはよくわからんですが、現代ポリティカルコレクトネスが省略されて蔑称に近くなっているとおり、『差別する奴は差別されて死ね!』という感覚でぶん殴ってくる人はアメリカにきっと多かろうなと思うところです。そんなそれぞれに分断された壁の内部にいる「悪い奴ら7人(御者は省こうか)」がそれぞれによりどころにするものがこの映画で描かれていることが、うまくギアチェンジできたら、ひょっとして泣けるのではという気がしていました。できませんでしたが。でも、ラストをもし劇場で見ていれば、泣いていたような気がします。悲しみを背負いながら、なりたいけどなれないであろう者を、『手紙』に託していた。そして、わずかに通じ合ったのでは。
 ということで、とても面白かったです。タランティーノのほかの映画も見てみたいですね。
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