Angie

天使のはらわた 名美のAngieのレビュー・感想・評価

天使のはらわた 名美(1979年製作の映画)
-
精神世界の限界点へ

これは・・・!現実だろうか、そうじゃないかなんて、もうどうだっていい。そう思わせてくれないのは、物語前半と後半の温度差が凄いからだろう。名美はキャリアウーマン、一流編集者の女性記者でプライドも高く仕事に真面目に生きている。真面目なシーンをかなり丁寧に描き、普通のドラマとしても楽しむことができてしまうくらい(正直ロマンポルノだということを忘れてしまったくらいだ)しかし、その真面目さゆえに、彼女はだんだん精神的に「犯されて」いくのだ。この作品、名美は誰からも性的暴行を受けていないし(後半のアレはカウントしない。後述する)ましてや名美のセックスシーンすら出てこないのだ。強姦シーンばかりで切ない濡場はゼロ、この設定からしても異色だろう。途中までは、これは誰が見ても「リアル」だ。ふとした時に名美が見せる、死んだような目。これはベタな演出ではあるが、なんども繰り返すことでじわじわと彼女の心がやられていくことを示している。「あんたには想像しかできないし、想像では全てわからないのよ」的なセリフを言われた時に、この物語の核が見えた。なるほど、名美が強姦されることに、きっと意味があるのだ。今までの名美は何かしらのきっかけで転落してきた。名美は強姦されることで、何かしらの変化、そして転落が待っている結末なのだ。それじゃあこの作品も…!と思いかけたとき、話はうまくいかなくなった。

 今回の村木は、今までのキャラクターとはかなり異なって、人生の荒波をすでに乗り越えてきた人だ。もう弱さはない。今回は、「救い愛」ではないのだ。だったら、村木が名美を抱こうと、もう二人には何も起こらないのだ。少しの愛情は抱いているように描かれていたが、それは埋め合うような愛ではなくて、かなり一方的なものであった。村木はまるで親のように、名美を見つめる。一方、名美は取り返しのつかない精神世界へダイブしてしまったのだ。物語後半の病院シーン、私はそれがデヴィット・リンチ的な「夢物語」だと解釈する。というか、病院のシーンから先全ては名美の頭の中であると、自分なりの解釈はこうだ。『強姦され、救い合うように惹かれ、待ち合わせにはこない』そんな結末は、もう存在していなかった。もはやそれ以上に残酷な終わり方だ。真面目なゆえに、人間の持つ性の暴力に、その激しさと切なさに心を悩ます。自分にも起こりうるかもしれない恐怖と好奇心、一緒になって彼女の心は支配されてしまう。赤いオフィスで股を開く彼女の表情よ。取材した人と同じセリフを吐く彼女。実際に肉体的強姦されるよりも切ない、「精神的強姦」の恐ろしさよ。村木だって救えない、誰も引き返せない、そんな闇だ。仕事や取材に、そして人の人生に首を突っ込みすぎた結果、罰当たりなのかもしれない。しかし名美の純情な姿はそれを悲劇にかえる。村木にナイフを3回刺して、物語は終わる。
Angie

Angie