ゆーあ

ブラックパンサーのゆーあのレビュー・感想・評価

ブラックパンサー(2018年製作の映画)
4.0

ありえないほど、<瀟洒>

もしアベンジャーズ新作で陛下のポスターが作られたら、キャッチコピーはこれだ!ってくらい、まず音楽とファッションが格好いい!どちらも作品の装飾として溶け込むのではなく、ビシバシに存在感を主張してる。それ故に、今や膨大となったMCUの中でも新鮮な見応えがあります。

音楽は、打楽器とコーラスを主にした民族音楽風のBGMがとってもエキゾチック。更に挿入歌にはめちゃくちゃドープなヒップホップが多々使用されてて、鑑賞後から今だにAmazon primeでケンドリック・ラマーのアルバムを聴きあさっています。
そしてファッション!!まず息をのんで釘付けになるのが、陛下の王位即位式の一つである滝上の決闘シーン。切り立った崖肌に各部族がそれぞれのカラーで統一された衣装をまとって立っているのですが、その光景はカラフルでパワフル!特にインディゴのストールに銀のテキスタイルが施されたボーダー族の衣装が好みでした。更にバリアが張れるとか超熱い…!国境警備の任に就く部族ならではの特徴づけなんですかね。個人部門では、ミュージアムシーンのキルモンガーがアカデミー賞/衣装デザイン賞受賞。黒のパンツに内ボアがついたライトブルーのジャケット、そして眼鏡!これはヤバかった…!その人のスタイル・顔・雰囲気すべて踏まえて、どうやったら持ち前の格好良さを全て引き出し、100倍にして投影させられるかを完全無欠に実現していた。格好いいとはこういうことさ。更に、下の犬歯に嵌めた金のグリルが最強セクシー!黒豹スーツへの変身アイテムとなるネックレスは、陛下が銀、キルモンガーが金と象徴的に対比されていますが、それがファッションの細部まで宿っていることに強いこだわりを感じ、ゾクゾクしました。不勉強ゆえ、ブラックカルチャーの特徴とか背景について知識がないのですが、それらのエネルギッシュで、時にダークな魅力は2時間たっぷり体感することができました。

伝統と最先端を兼ねそろえた音楽とファッションに象徴されるように、『ブラックパンサー』のキーワードは「全く対照的だが、決して離れえない二つの要素」だと思います。日々拡大するグローバル社会の中で、旧来の価値観を踏襲し確約された方法で国を守るか、新たな貢献の手段を模索すべきか。この葛藤の中で王として成長していくのがティ・チャラの物語ですが、そこに対立するキルモンガーは強大な技術力でアフリカ系黒人の武装蜂起を扇動し、その結果ワカンダの国際的地位を向上させようと目論みます。キルモンガーの思想は過激ですが、現実の歴史を顧みればそういう事件は確かにあったわけだし、その方法が一概に間違いだったとも言えない。アパートの一部屋に暮らす抑圧されたアフリカ系黒人が、国家組織の特殊部隊員として戦歴を重ねるうちに力をつけ、やがて世界を変える―もし映画の主人公がキルモンガーだったら、そんなドラマチックな革命物語だったかもしれない。ティ・チャラの安寧な彼岸の淵のビジョンに対し、夜のアパートで父親と2人きりで語り合うキルモンガーの思い出も、実現すべき夢の大きさを強調する1シーンになっていたでしょう。『ブラックパンサー』ではどちらが正義でどちらが悪か、やむを得ず明白にしているけれど、その二つは本来分かちがたく糾えるものであることを、彼との戦いを経た陛下の胸には深く刻まれ続けてほしいと願います。観客に対しては、二つの主張に対して自分はどう思うか、シビルウォーに続く「Whose side are you on?」を問う映画だなと思いました。
キルモンガーの過激思想の根底には父親を亡くした復讐心がありますが、ティ・チャラも『シビルウォー』で抱いたその暗い気持ちを消化しないままだったら、同じ道をたどっていたかもしれない。その点においてもこの二人は「対照的でありながら離れえない」関係です。ラストバトルで、ソニック装置の影響でスーツの効果が弱まり、互いの素顔を突き合わせて闘う演出は、そのことを強く意識させてとても良かったです。

さて期待のアクションは、超技術大国ワカンダの粋を魅せるギミックに富んでいて面白かったです。特にバーチャルカーチェイスとフライトシューティングはゲーム性が高くてワクワクしました。カーチェイスでは「来た来たあ~♪」と言いながら乗り込むシュリちゃんもちょー可愛かったです。
しかし、これがこの映画の唯一の難点なのですが…アクションのカメラワークがマジで見づらい!決闘シーンも寄りの画面が多くて格闘のダイナミックさが伝わらないし、一番悔しかったのはカジノでの長回し。翻るオコエの赤いドレスやクライマックスの札束ふぶきなど、魅せたい部分はよ~くわかるのに、展開とカメラスピードの連携が悪いため視線がパキッと定まらない。うまくいけば永久リピートしたいシーンなのに…あぁ~もったいない!!!

MCUは最も成功したスーパーヒーロー映画シリーズとして、そのビジネスモデル以外にも他に大きな衝撃と影響を与えていますが、ブラックパンサーはそのうちの「カルチャー部門」担当だなと感じました。ファッション、音楽など「世界にはこんなにカッコイイものがある!」ことをとても楽しく教えてくれる作品でした。直後には現フェイズの節目となる大作『インフィニティ・ウォー』が待ち構えていますが、MCUにはまだまだ秘匿された魅力が沢山あることを実感し、これからも追いかけていきたいという気持ちが大きくなりました。ワカンダ・フォーエバー!
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