ゆーあ

ニュー・ミュータントのゆーあのネタバレレビュー・内容・結末

ニュー・ミュータント(2020年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

X-MEN×隔離精神病棟ホラー×青春映画

10代の少年少女が、自らのトラウマとたたかい乗り越え、前を向いて進むストーリーなので、ホラーではあるものの、すごく爽やかな後味の映画です。

舞台は隔離病棟。「ミュータントパワーを治療により制御する」目的で収容された5人の少年少女が共同生活を送るうちに、施設の異常性に気づき、恐ろしい体験をするというあらすじです。

恐怖描写のメインは彼らの過去のトラウマで、燃え盛る焼死体、魔女狩りの焼印を押す顔に大きな裂傷がある神父、目が無く口が裂けた異常に手足が細い人型のクリーチャーなど…しかもこれらは幻覚ではなく、物理的にトラウマの持ち主を襲ってきます。なぜならこれはネタバレですが、主人公の能力が、人の恐怖を現出させるというものだから!いやはや凶悪すぎる~!襲ってくるのが暗いプールやシャワールームなど、湿度が高くて嫌な場所だという点も基本を押さえてますね!特に人型クリーチャーの群れが閉鎖された病棟の廊下や階段をゾロゾロと追いかけてくるシーンは、ホラー映画として100点の怖さでした。

病棟施設自体も、終始陰鬱な雰囲気を漂わせており、何もなくても周囲を警戒させるような落ち着きのなさを感じさせます。最悪の「恵まれし子らの学園」って感じですね。なお本当の「恵まれし子らの学園」およびX-MENについても作中で言及があります。病棟の管理者であるセシリア先生は、この施設での治療が終了すれば「恵まれし子らの学園」に行けるという匂わせをしますが、終盤に、実はこの病棟はエセックス・コーポレーションの所有物で、退院後はその研究施設に連れていきプロジェクトに参加させられる運命であることが明らかになります。プロジェクトの詳細は語られませんが、間違いなくウエポン・プラス計画ですね…

ということで暴走し襲いかかる主人公の能力=トラウマに対抗しつつ、施設を脱出するために、終盤はミュータントの能力を駆使したまさに「X-MENシリーズのバトル」を楽しめます。特にイリアナ・ラスプーチンがスゴイ!!この子は敵対的な性格でことあるごとに主人公を侮蔑する、いわゆるいじめっ子ですが、自分の能力を理解しているため、戦闘スキルは他より頭一つ以上とびぬけています。魔法で右腕に銀色のアーマーを装備し、青く燃える大刀を振りかざして敵を薙ぎ払う。そしてリンボーと呼ばれる異世界を出現させ、そこ経由でテレポートもできるため、機動力も最強クラス。ここまでホラー展開で固めてきた分、そのCGを駆使したマジカルなエフェクトは、この映画がX-MENシリーズであることを改めて思いださせます。彼女は自身をトラウマから守ってくれるお守りとして、ぬいぐるみのパペットを手放せないのですが、その弱弱しいギャップと、最後にはずっといじめていた主人公を守るため自らしんがりを務める姿に惚れぼれ!

いじめっ子であるイリアナに対し、常に主人公をかばってくれる優しい女の子がレイン。この子がもう可愛くて!!目がぱっちりしたタヌキ顔という見た目がもう愛らしいのですが、おとなしそうに見えて行動力があり、はしゃぐ時には思いっきりはじける姿もすごく可愛い!主人公とレインは心を通わせるうち、恋人のような関係になります。両者の嗜好は分かりませんが、私はこの関係を、思春期の性倒錯の一種に感じました。閉鎖的な環境で互いの不安を癒し合ううちに、その安心感を恋愛感情と錯覚しているのかなと。隔離病棟の中で恐ろしい現象が続くなか、彼女たちの不安定で揺れ動く、ひとときの甘い時間は、まさしく青春映画の一コマでした。
それ以外にも、先生の目を盗んで屋根裏でみんなでハメを外して遊ぶなど、自己の内面に巣食う闇におびえるだけでなく、楽しいことには全力で飛び込むパワフルさを垣間見るシーンもあって、展開のメリハリになると同時に、青春映画としての要素を更に強めていて良かったです。

このように主人公たち少年少女の内面が深く描かれ、それを乗り越えることで成長する物語なので、怖いシーンはしっかりあるけれども、全体的にティーン向け映画の印象です。X-MENのホラー作品といえば先に『レギオン』があり、精神を摩耗する点ではあちらの方が強力ですが、同軸では語ることのできない良さがある映画です。
ゆーあ

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