海

スポットライト 世紀のスクープの海のネタバレレビュー・内容・結末

4.3

このレビューはネタバレを含みます

人気だから公開期間延長になったらしいですね。慌てて仕事帰りに見てきました。

これはなんていうかもう、言葉にならない重圧と衝撃。ロクヨンで隠蔽ネタと記者クラブの話はもうやったけど、流石に実話ベースでこの規模は比にならないレベル。

自分の人生の根本から信じていたものが音を立てて瓦解したら、何が残るんだ。

残念ながら自分はこういった宗教がテーマに絡んでくる作品は恐らくその半分も身を以て理解することができないのだけど、親が居なかったり、貧困に生活が苦しかったり、このままじゃ心が折れてしまう時に死にたくなる時にきっと「信仰」は心から支えになるものなんだろう。愛だのなんだの言葉にすれば陳腐かも知れないけど、信仰を家族や恋人に置き換えたらどうだろうか。自分は幼少の時に「親」は絶対であると同時に縋るものでもあった覚えならある。

作中でもあったけど、ゲイの男がガキの頃に「初めて自分を認めてくれた神父様」にレイプされて最悪の初体験にも関わらず「男を嫌いになれない」って堪えきれずに泣くところとか。幼少期に性的虐待を受けてもそれを乗り越えて大人になっても薬漬けだったりアル中だったり、或いは立派に家庭を築いててもその話を取材しに行くと唐突に表情が変わって泣き出すのとか。子供にとって神父は神の代理人だから、その神に対してヤらせろって言われたらノーとは言えないとか。

そもそも幼少期に神父に虐待されて大人になるまで生き残れる方が少数でその多くは自分で命を絶っちゃうんだそうで。自殺大国日本ならまだしもカトリックで、ですよ。自殺は大罪という教えの元に育ちながら、それでも思い出すと辛くて。

で、当の神父たちはヘラヘラしながら己の快楽の為だけにそういう行為を社会的弱者を選んでヤってたのか?って見てくとその多くの神父たちの精神年齢は12歳前後、中には自分も昔レイプされたなんて奴もいる。負の連鎖。

信仰が根本にあるから、「これは仕方の無いことなんだ」って子供は思っちゃうんだね。虐待される子供は恨むんじゃなくて自分が悪い子だからって自分を納得させるなんて話も有るしね。

で、田舎町では教会はとにかく偉いし、偉大だし、そこに楯突くなんてあり得ないってことでそういった性的虐待を知りつつも「まぁそんな頻繁にあることでも無いし犬に噛まれたと思って…」みたいになあなあにしてるんですよね。

で、そこにユダヤ人の編集長を始めとした記者たちが「いやいや待てよおかしくねーか?」って切り込んでいくと…とんでもない数の被害者と加害者が出てくるわけで。弁護士も司法も警察も裁判官も全部グルで「バチカン」に支配されて隠蔽されてたってことが明るみになる。

でも、記事にする事で、知られ渡る事で、記者の一人の祖母にスポットが当たるんだけどこのお婆ちゃんは性的虐待を受けたわけでも無いのに、今まで信じてたものが全部崩れてもぬけの殻になるのがたった1シーン、1カットなのにすごい伝わる表情だったりしてね。ああ、今まで信じてたものが全部クソみたいなモンだったってなると…そうか、虚無だなって。

最後の字幕でこの手の映画にはおきまりの「実際はどうだったか」みたいなエピローグが入るんだけど…全世界で教会関係者にレイプされた被害者の数が現在報告されてるだけで4千人以上。神父資格剥奪が800人以上、2600人以上が職務永久追放って聞いてもう胸糞悪いどころじゃない。2000年の歴史を誇るローマ教会が長年掛けてずっと隠匿してきたのがこのザマ。

その辺の犯罪者がただ子供を手当たり次第レイプしましたっただけでも最悪なのに、信仰を根本から否定された魂の犯罪ってなるとこれはもうなんて言ったら良いんですかね。

アカデミー作品賞を受賞した今作で監督は「問題提起できたことが嬉しい」と語っているそうで。俺もこの映画を見なければそんなバカみたいな胸糞悪くなる話があるとは知らないままだったろうから。本当にもっと多くの人に見てもらいたい、そして感じた気持ちや考えで再発を防いで欲しいと思わずにはいられない作品でした。
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