円柱野郎

仁義なき戦いの円柱野郎のネタバレレビュー・内容・結末

仁義なき戦い(1973年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

戦後の広島で起きたヤクザの広島抗争について、当事者である元組長が獄中に記した手記を基にしたノンフィクションの映画化作品。
終戦直後の広島・呉を舞台に、山守組に入った復員兵の広能昌三(菅原文太)を通して後に広島抗争へと至る呉での組織内での対立を描く。

東映の実録ヤクザ映画の先駆けとして歴史に残る作品だが、なるほど今観てもその力強さは色あせない。
さすがに名称は変えているものの、ヤクザの生々しい対立がギラギラとした空気感として映し出され目が離せなかった。
(ちなみに原作のノンフィクションは実名表記。)

タイトルは「仁義なき戦い」だが、描かれる人物は仁義を求めて生きているようにも見えた。
特に主人公の広能はそのように見えるから感情移入しやすいわけだが、作品を覆う殺伐とした力関係と暴力の描写は、もはやそういう世界の中で仁義を通して生き抜くことが難しいのだと見せつける展開は見事。
山守組の若頭・坂井鉄也(松方弘樹)や土居組の若杉寛(梅宮辰夫)も劇中で謀殺されるが、広能と仁義が成立していた人物も次々と殺害されることで時代劇的な仁義や任侠の世界とは別次元の世界観が現れていると思う。

山守組の組長(金子信雄)というタヌキ親父こそがその元凶で、そして彼が生き残るでこの映画が「仁義のない」世界の表現型として成立するわけだ。
それが観る側に呆れと怒りを提供してくれるのだけれど、菅原文太の演じる広能のギラギラ感がそれを支えて観客に得も言えぬ鑑賞後感を与えてくれる。
ドキュメントタッチだからこそ余計にそう感じるのだろうけど、なかなかに生々しい。

作品としては組織内外での対立が主軸となるので、登場人物は多いしその利害関係も複雑だ。
話のテンポも速い方だと思うのだけど、主役の広能が背骨になって分かりやすく整理されているかな。
揺れるカメラが生々しさを増長させ、ナレーションがリアル感を補完する。
そして登場人物の広島弁がヤクザというキャラクターを強化し、最後にあの"効果音"と言っても過言ではないインパクトのあるテーマ曲がこの作品を完成させていると思う。
「仁義なき戦い」という様式の完成だね。
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