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リリーのすべてのbluemomday0105のレビュー・感想・評価

リリーのすべて(2015年製作の映画)
4.2
100年ほど前に世界で初めて性別適合手術を受けたリリー・エルベと、リリーの妻であったゲルダを題材とした、美しく強い物語。

ふとしたことから自身の本当の性に気づき、女性として生きようとするリリーと、変わりゆく夫に戸惑い苦しみながらもリリーを生涯支えたゲルダ。私自身に重なるものはなくても途中から涙が止まらなかった。美しいピアノの劇伴と、夫婦を演じたエディ・レッドメインとアリシア・ヴィキャンデルの素晴らしい演技ゆえに。

リリーを演じたエディ・レッドメイン。愛妻家の男性アイナーからリリーとなるまでの変遷と役作りが緻密なグラデーションのようで。最初は美しい女装だったけど、終盤はすっかり美しい女性だった。気持ちがリリーになっていた頃、途中アイナーの服装に着替えるシーンの違和感。両腕で胸筋を挟み谷間を作ったり、男性器を股間に挟み隠す場面での「なぜ自分はこの体なんだろう」という気持ちが伝わる悲しみと恍惚。
前年の「博士と彼女のセオリー」での受賞がなければ十分アカデミー賞主演男優賞受賞もあったのでは…。

逆に「キャロル」のルーニー・マーラの繊細な演技をも凌ぐ助演女優賞を受賞したアリシア・ヴィキャンデル。「コードネーム U.N.C.L.E.」のヒロイン役しか知らなかった私ですが、愛する夫が変わっていくことに戸惑い苦悩しながらも、夫が望むようにサポートしていく難しい役柄をリアルに演じていた。すごくよかった。

アイナー/リリー同様、最初は若く可愛い妻だったゲルダもだんだんリリーの保護者のように変容していくんですが、途中で「夫が夫でなくなっていく」ことを受け止めづらくなる描写があって。ここの演技がすごくよかった。泣きながら「アイナーに会いたい」って語る場面が本当に素晴らしいし泣ける。

夫の希望を叶えたい。しかしそれは、夫を失うことでもある。きっと何回も自問自答したのだろう。ただ、元々画家として結びついた2人だから、夫婦であるとともに同志的な感情もあったのかもしれない。

原題は「The Danish Girl」。
本来の姿になれたリリーと、愛する人を支え続けたゲルダ。2人のデンマークの女の子の物語。
カラフルだけど温かみもあるニューハウンの風景や、リリーの故郷の風景が美しかった。どこをとっても美しいな。
アイナーがリリーとして美しくなる一方、才能を認められてた絵画への情熱を失っていくのは、人間の脚を手に入れる代わりに声を失った人魚姫みたいで。そういえばコペンハーゲンには人魚姫の像があるんだった。
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