Angie

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リリーのすべて(2015年製作の映画)
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アイダー ノットイコール リリー


リリー。二つの自分の中で揺れ動いた人生….
描き方は本当に素晴らしい。女性としてのリリー、そして夫であるアイダーの間で揺れ動く。リリーであることは前からわかっているのに、ひたむきに隠し、隠し、それは妻のためでもあり社会のためでもある。そんな辛さに耐えながら、でもアイダーへの恨みは溜まって。二重性という題材は心を打つ。この感情の行き来の儚さ、そして切なさに涙。

そして妻のグレダの葛藤。彼女はアイダーしか愛せない。でも彼女はリリーはアイダーであることをこっそりと気づいていたのだ。(この点は本人は気づけない)だからこそ彼女を守り見守るのだ。彼女の悲しさと切なさ、そして暖かさに涙が出た。そしてそれを前面に出さない静けさ。

リリーは手術によって希望を成し遂げる。結果はどうであれ、これが彼女の望みであるのだ。そのエンドはどうしても美しく残酷に見えてしまう。
リリーとしての自分の完全に移行できて彼女は心の底から幸せなのだろう。だが、あくまでも「
アイダー ノットイコール リリー」なのだ。本人はこれには気づけない。アイダー=リリーであることに。リリーは自分の中の女性性を抽出して、リリーという人物を作ってしまった。二つに別れることは、そこでアイダー(男性性)との別れだ。つまり自分の中に自分が二人存在しているということは、どちらかを殺すという選択肢か存在していないのだ。だが、この考えは実に普遍的なものであろう。トランスジェンダーの方の気持ちがわかるわけではないが、この二重性というテーマは誰しもが持ってしまうものであるかもしれない。マジョリティのわたしでさえ。
わたしはわたしだと気づけずに終わるリリーは幸せだったのだろうか。彼女は幸せに死んだ。グレダだけが、あなたはあなた、という事実に気づけたまま。
Angie

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