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人間の値打ちの東京キネマのレビュー・感想・評価

人間の値打ち(2013年製作の映画)
4.5
参りました。結構、ツボでした。イタリア映画だからと舐めてかかった私が悪うござんした、です。

このドラマは基本、金絡みの欲ボケ話が中心なので悲劇性は小さいのです。なので、事故の結果で致命的な人生に転落した人は一人も居ません。このライトな悲劇性が、むしろドラマをリアルにしてます。

あとですね、この映画に登場する人達、誰一人、生産的な仕事をしている人が居ないのです。不動産屋とか、投資家とか、心療内科のカウンセラーとか、学生とかね。物を作ったり、売ったりする、いわば第一次から第三次産業の非生産的製造業までの人が一人も登場しないのですよ。要するに、空中浮遊しているような社会、土に根ざしていない社会というのでしょうか、ちょっと近未来的なんです。こういう設定作りのうまさも関心しました。

今ヨーロッパでは凄まじい不況なんですが、これはっきり言えばユーロ・バブルの後遺症でね。通貨統一で、特にヨーロッパ南部にはどっとお金が落ちてきたことで、今まで細々とやっていた商売や代々の土地やらを売って、その金で悠々自適の隠遁生活を送った人が物凄く多かったんですね。その後に不況がやってきたら、もう呆然としているだけで、社会との関連性が何もなくなっているのに気付くんです。この何というか、平時では幸せな共同体なんだけど、何か起きるとそれぞれが責め合って、金以外何も信じない社会というんでしょうか、そういう世紀末的な社会が、この映画ではうまく表現されています。

つまり、どれだけイノベーションの進んだ社会になったとしても、生活に根ざした仕事が身の回りにないと、これだけ精神が貧困化しますよ、という寓話なんですよね。製作は2013年ですから、東日本大震災後の日本人の団結に触発されたのかも知れません。お話は案外サラッと流しているんですが、そのバックグラウンドを考えてみると、本当に悲惨な世界が見えてくるというか、考えてしまう状況があります。。。
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