八木

ラ・ラ・ランドの八木のレビュー・感想・評価

ラ・ラ・ランド(2016年製作の映画)
4.2
僕は自分という人間が希薄なので、よくわからんものは相対的にしか言葉を持つことができません。よって、僕がミュージカル映画に対するリテラシーがほぼないために、この映画は基本的に「どう言っていいかよくわからん」という感想が基本です。
今の自分なりに感じたことは、この映画は「実際のミュージカル」を相当意識して作られた映画ではないか、ということです。ポスターや紹介画像でよく出てくる、どっかの丘の上で夕焼けか朝焼けみたいな背景に、ライアン・ゴズリングとエマ・ストーンがイヤミみたいなポーズで踊っているように、この映画は現実とはまるで別世界で起こっていることのように意識して画面作りをしていると思います。舞台の年代もぼかされていて、タイポグラフィや街並み、ファッションがレトロなのにiPhoneが登場するし、なかなか脳が揺れる構造になってます。
その最たるポイントとしては、ストーリーの普遍さであり、退屈さにあります。内容をとても乱暴に書けば、「夢向かって生き続けよう、それに伴うどのような結果も、時間がたてば素晴らしい人生の一部なのさ」というものです。悪い意味でなく、どっかで見たような展開がしっかりと繰り返しで丁寧に紡がれ、意外な展開は何一つありません。音楽の使われ方も、印象的に流れるものは再び印象的に登場します。
このような映像・演出・ストーリーからも、キャッツやライオンキングといったミュージカルのビッグタイトルが比喩でなく100回1000回と繰り返し上演されるように、『繰り返し見て耐える上質なミュージカル』としてものすごく意識されたもんじゃなかろうか、と観ていて思いました。だとしたら、その大方が高水準で成功していると思う。そもそも、ミュージカルという表現ツールは、現実やいわゆる「映画」ってものと大きく乖離させることが武器なんだろうし、二人の無職が二通りの大成功を得るという都合よすぎに見える展開についても、徹底して演出によってその臭みがきれいに消せていると思います。よって、誰が見てもゆるふわと感動を得られる映画であって、うっかり見に行って感動を頂けばよいのではないでしょうか。
個人的に、ジョン・レジェンドがおよそ自身の音楽家としてのキャラじゃない人物で演奏していて面白かったです。「ああ、音楽聴きてえ」「俺もタップ踊りてえ」って素直に思えたし、見てよかったですよ、この映画。
八木

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