八木

LION ライオン 25年目のただいまの八木のレビュー・感想・評価

4.3
見始めて「ちょっと幼少期長くない?」と思ったあたりにやってくる、里親のくだりで緊張感が一気に増す。僕は冷血人間なところがあるので、ワガママなガキが調子乗ってミスって派手な迷子になったことについて『俺の知ったことか』という気持ちがとても強かったのだが、長すぎると感じるくらいに幼少期を、徹底して少年サルーの視点から描くことで、「知らない家族が自分を欲しがっている」ということに空間がきしむような違和感を作り出していたと思います。支援者が「こっちがジョンで、こっちがスー」と指さして説明するのだが、初めて見る国籍も人種も違うどっかの大人について、改めて何も思えないのです。不安しかない。この時点で、サルーの兄と母親以外には、人格を持った人間はほとんど登場していないことから、味方か敵かを認識できない子供というのは、安心を食ってやっとこさ生きていることがよくわかるつくりになっていました。
もう一つは、やっとこうまく滑り出した里親生活の1年目、追加の同じくインド系の養子がやってきたときの不安感も壮絶でした。その後の弟に関するあれこれは、『まあ実話なんだからしゃあねえな』という感じではありますが。
「ただいま」となるまでの過程とか道中にフォーカスするのでなくて、最初から最後まで「その人」がこれまで生きてきた中にはいろいろな人や偶然やらがある、ということを丁寧に描き出しているのが、この映画の特徴であり、最大の良いところだと思います。そうやって、人がたまたまこの世に生きている偶然というものを立体的に認識することができる、よい映画でした。
インドの俳優さん誰一人知らんかったけど、無茶苦茶重要な場面でことごとくいい仕事していて良かったです。
八木

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